加速する生成系AIの開発と、その企業活動への影響

2023/09/05 石川 恵太郎
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生成系AI、特にLLM(大規模言語モデル、ChatGPTなどのこと)とその進展は周知の通りです[ 1 ]。LLMは有用である一方、その導入による影響も気になります。セキュリティーや知財に関するリスクも重要ですが、本稿ではLLMの得手不得手や加速する開発状況を踏まえつつ、企業活動への影響について論じます。

LLMの回答は専門家を超えない

LLMを自身の専門分野で試した際に、物足りなかったり、事実と異なることが混ざったりと、その出力に困惑された方もいるでしょう。LLMは文書生成・表現を目的として開発されたAIです。その改良により情報の精度が向上したり、検索を補助するプラグインが出現したりするもののhallucination(幻覚、嘘)がゼロにはなることはありません。

このことは、少なくともhallucinationを見破れる程度に高度な専門性・知見を持つ人材(のネットワーク)の価値が高まることにつながりそうです。一方、web上の知見の抜粋・まとめ程度でいいから早く安く入手したい、文書の要約や整理をしたいというニーズにはLLMで十分です。LLMは疲れることも文句を言うこともなく、何度でも作業してくれます。プロンプト(命令文)例は調べればあります[ 2 ]し、Microsoftの「Azure OpenAI Service」のような有償サービス内でも提供されています。マーケットプレイス[ 3 ]のように、良いプロンプトを共有するインセンティブがある仕組みも出現しています。

自律型AIエージェントも出現しつつある

AutoGPTやBabyAGIといった、自律型AIエージェントとでもいうべき取り組みも魅力的です。人の作業を効率化するために、人とLLMの間にAIエージェントを置き、人が都度プロンプトを投入しなくても自律的にLLMに処理させるのがおおよその仕組みです。魅力的な機能を整理すると、以下2点が挙げられます。

(1)人が持つ曖昧な目的を実行可能なタスクに分解(LLMに再帰的に考えさせるアイデア)
(2)LLM自体にできないタスクの実行(LLMが学習していない最新情報の検索など)

(2)はChatGPTでもプラグインとして提供されるなど、ますます便利になっています。一方で、(1)は未だ成否が分かれており、比較的シンプルな目的なら自律的に完成できる一方、分解したタスクをLLMが実行できず無限ループになるなどの事象も起きています。もちろん、新たな考え方[ 4 ]は日々出現しており、技術的に解決される可能性もあります。しかし、実行可能なタスク群を設計する仕事は、当面は人の仕事として残ると考えられます。

このことは、たとえばリサーチ作業におけるプランニング(他者に指示できる程度に調査の枠組みや作業を設計する)能力の重要性が高まることにつながりそうです。一方、プランニングが不要なほど簡単なリサーチならLLMで十分です。専門性・知見があまりない企業に外注するより、LLMを活用して内製する方が手間や費用を抑えられると考える企業もあるでしょう。

LLM開発は大資本に任せ、形成途上のエコシステムに注視

LLM自体の開発には、極めて大量のデータ、それらを収集・蓄積してモデル構築するためのITリソース、そして、それらを使いこなす優秀な人材が必要です。これらを実現できるのはGAFAMのような大資本や、そこから出資を受ける企業に限られます。日本国内でも取り組みはあります[ 5 ]が、その資本力の差から開発可能な言語モデルの規模が比較にならないほど違い、それは性能の差となり得ます。このため、狙うのは「日本語言語モデル」や「ドメイン特化型」となる傾向にあります。

すなわち、当面は大資本が開発したLLMの活用がベースとなるでしょうが、ユーザーの利便性を高める機能やUIには、開発の余地が残ります。大資本によるLLMを中心に、今後形成されるエコシステムにおいて不可欠なピースになれるかどうかが、ひとつの観点です。この分野では、すでに数多くの企業が多様なサービスを提供し始めています[ 6 ]。Microsoftの「Azure OpenAI Service」も「Add your data」などの新機能を続々と提供していますし、OpenAIもプラグインだけでなく、エコシステムのプラットフォームから狙える活動[ 7 ]を発表しています。

業務が変わる可能性があるとするなら

ここまで述べてきたように、LLMのhallucinationを見抜ける程度の専門性や知見、プランニング能力、ITリテラシーを持つ方であれば、LLMに負けず、むしろLLMを使いこなして今より効率よく仕事ができます。

一方で、悲観的なシナリオのひとつとして、成長途上の方の場合、経験を積む場が減少するという可能性が懸念されます。もちろん、短期的にはLLMを活用して業務が効率化されたり、LLM導入を通じて新たな仕事が増えたりするでしょう。その間に新たなイノベーションがあれば、懸念は杞憂に終わります。しかし、「Stable Diffusion」などの画像生成AIでは、超一流のプロの仕事までは奪わないものの、そこに及ばないレベルの仕事を代替する話が聞こえてきています。LLMによる中長期的なシナリオのひとつとして、十分に考えられます。

このシナリオに対して、たとえば深い専門性・知見を今より早く習得するために、従業員を特定の業務に長く従事させるといった施策が考えられますが、それは既存の人事・組織運営(数年おきのローテーションなど)と合わないかもしれません。LLMや生成系AIの進展は、日々の業務を便利にする可能性がある一方、その変化が自社の活動に与える中長期的な影響についても、企業は具体的に検討することが必要となります。

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1 ] LLMについてくわしく知りたい場合は、たとえば以下の記事があります。
GPTで始まる大規模言語モデル時代 | Think IT(シンクイット) (最終確認日:2023/8/10)
2 ] たとえば以下のサイトがあります。
ChatGPTプロンプトテンプレ | PROMPTY (bocek.co.jp) (最終確認日:2023/8/10)
[2023年4月版]ChatGPT本家サイトのプロンプト例をご紹介 (zenn.dev) (最終確認日:2023/8/10)
3 ] たとえば以下のサイトがあります。
ChatGPT AI Prompts | PromptBase (最終確認日:2023/8/10)
Prompt Lab(β版) (prompt-laboratory.com) (最終確認日:2023/8/10)
4 ] たとえば以下のような論文が話題になっています。
Tree of Thoughts: Deliberate Problem Solving with Large Language Models (arxiv.org) (最終確認日:2023/8/10)
5 加熱する生成AIの日本語対応「大規模言語モデル(LLM)」の開発競争と政府の対応 (newspicks.com) (最終確認日:2023/8/10)
6 生成系AIのカオスマップまとめ! | PROMPTY (bocek.co.jp) (最終確認日:2023/8/10)
7 OpenAI、AIのモデルを販売できるマーケットプレイスの計画を発表 | PROMPTY (bocek.co.jp) (最終確認日:2023/8/10)

執筆者

  • 石川 恵太郎

    コンサルティング事業本部

    ココロミルラボ室

    チーフデータサイエンティスト

    石川 恵太郎
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