Z世代を読み解く(5)~うまい仕事の任せ方(1)任せる際の3つのポイント~

2024/04/23 大坪 翔一
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「部下育成」や「後輩指導」をテーマとした研修の現場では、受講者から「仕事を任せることが苦手です」という声をよく耳にします。人材の育成には「仕事を任せる」ことが重要であるという漠然とした認識はあるものの、その要諦を把握しきれていないケースも多いようです。
「Z世代を読み解く」と題して一連のコラムをお届けしておりますが、今回と次回のコラムでは「うまい仕事の任せ方」について考察します。本コラムでは、そもそも「仕事を任せる」とはどういった行動であるかを明確にしたうえで、仕事を任せる立場の方々が押さえたい3つのポイントを解説します。

「任せる」とは「3つのもの」を渡すこと

「任せる」とはどのような行動であると定義できるでしょうか。
例えば、先輩が後輩に仕事を任せることを考えてみると、「先輩が自分の仕事を後輩に渡す」という行動を想像しやすいでしょう。リレー競技に例えるならば、ランナーが手に持っているバトンを次の走者に渡すように、先輩が持っている「仕事」を後輩に渡すということです。この時、このバトンには「仕事」以外の2つの要素を含んでいます。
その2つとは、「責任」と「自由」です。
「責任」とは、任せられた仕事をしっかり遂行する義務のことです。「行動責任」や「遂行責任」とも表現できます。
「自由」とは、他人から強制されることなく思いのままに行動できることを意味します。「裁量」と言い換えてもよいでしょう。

【図表1】仕事を任せるイメージ
仕事を任せるイメージ
(出所)当社作成

つまり、仕事を任せるとは、「本来あなたがやるべき『仕事』を相手の『責任』で『自由』にやってもらうこと」と定義できます。「仕事」だけでなく、付随する2つの要素を一緒にパスできると「うまく仕事を任せた」といえるのです。
以下では、うまく仕事を任せる際の3つのポイントを解説します。

ポイント① 「責任」と「自由」のバランスを取る

仕事を任せる際は、相手に渡す「責任」と「自由」の大きさが釣り合う必要があります。

【図表2】責任と自由のバランスを取る
責任と自由のバランスを取る
(出所)当社作成

このバランスが取れていないと、人材育成はうまくいきません。
例えば、「指示した通りにやってください。ただし、うまくいかなかったらあなたの責任です」という仕事の任せ方はいかがでしょうか。これは「自由」をほとんど与えず、「責任」ばかり相手に与えている(押し付けている)一例です。この例は極端すぎるかもしれませんが、「仕事を任せておきながら細かな指示を出し続け、うまくいかなかったら残業を指示する」といった状況は往々にしてあることです。このように自由よりも責任が大きい状況では、相手の意欲喪失や不満につながってしまい、業務遂行においても人材育成においても、うまい仕事の任せ方ではありません。

逆に、相手に渡す「自由」が大きく、「責任」が小さいとどうなるでしょうか。例えば、「自由にやってください。すべての責任は私がとります」といった仕事の任せ方です。これは案外よく耳にする言葉ではないでしょうか。
こうした発言をする上司は、自身が負うべき「結果責任」を考えて発言していることが想像されます。当然、最終的な成果を生み出す「結果責任」は上司が負うべきものなので、あながちこの言葉も誤りではないのですが、相手の責任感を醸成しながら成長を促すためには、最適な伝え方とは言い難いです。「〇〇の範囲で自由にやっていいよ。ただし、期日までにしっかり完遂するようにね」と、自由とともに行動責任も相手にあることをしっかり説明することが重要でしょう。

【図表3】責任と自由がアンバランスな仕事の任せ方
責任と自由がアンバランスな仕事の任せ方
(出所)当社作成

ポイント② 放置しない

「任せる」ということと、「放置」や「ほったらかし」は似て非なる行動です。任せた仕事の進捗をしっかり確認することも、仕事を任せた者の責務です。
そのため、「あなたのことを信頼しているから、あとはもう任せたよ!」と伝えてしまうのは、仕事の任せ方として適切とはいえません。進捗をしっかり確認できるよう、報告・連絡・相談のルールについて、仕事を任せる段階で合意を取っておくことが重要です。
松下幸之助の「任せて任せず」[ 1 ]という言葉は、まさにこの考え方をシンプルに表現したものといえます。

ポイント③ 相手の成熟度に応じて任せる

どのような相手に対しても常に同じ大きさの責任と自由を渡していては、うまい仕事の任せ方ができているとはいえません。相手の成熟度に応じて「責任」と「自由」の大きさをコントロールすることが3つ目のポイントです。
例えば、ある仕事に対してまだ不慣れな新入社員に対しては、10%の責任と10%の自由をセットにして渡しましょう。逆に習熟度の高いベテラン社員であれば、90%の責任と90%の自由を渡すとよりうまくいくでしょう。相手の成熟度を見極めた上で「責任」と「自由」は同じくらいの大きさにして与え、そして成熟度の高まりに合わせて両者を大きくしていくことが重要です。

【図表4】成熟度に応じて「責任」と「自由」の大きさを変える
成熟度に応じて「責任」と「自由」の大きさを変える
(出所)当社作成

まとめ

今回のコラムでは、「仕事を任せる」という行動において重要な3つのポイントを解説しました。次回のコラムでは、Z世代と呼ばれる若手社員に対して仕事を任せる際の留意点を解説します。

(参考文献・Webサイト)
・小倉 広『任せる技術 わかっているようでわかっていないチームリーダーのきほん』(日本経済新聞出版社、2011)
・PHP研究所経営理念研究本部https://konosuke-matsushita.com/keywords/hr-development/no3.php (最終確認日:2024/3/15)

【関連サービス資料】
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1 ]PHP研究所 松下幸之助.com 用語セレクション「任せて任せず ―― 人の育て方、活かし方<3>」https://konosuke-matsushita.com/keywords/hr-development/no3.php(最終確認日:2024/4/12)

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