ここ最近、「ウェルビーイング (以下、WB)」「ワーク・エンゲイジメント(以下、WE)」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。この2つの考え方は、人材不足や人材獲得競争が激化する現代において、より重要視されてきています。当社では、さまざまな企業で働く約2万人の社員を対象にWB・WEに関するアンケート調査を実施。その結果分析からインサイトを抽出し、社会への提言や企業へのコンサルティングを行っています。アンケート調査・結果分析を主導した古川琢郎と山近祐揮に話を聞きました。

2万人を対象とした大規模アンケート調査

Q.まずは、アンケート調査の概要を教えてください。

古川：日本で働く会社員を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、その結果を分析したレポートを当社のホームページにて公開しています［¹］。アンケートに協力いただいたのは、業種や職種、年代、規模など、属性が異なる2万人の正社員です。WB・WEに関する質問を中心に、約40項目について回答いただきました。

アンケート調査にあたって、慶應義塾大学や武蔵野大学にてWBの研究をしている前野隆司教授に監修いただきました。調査の結果を踏まえて、先行研究や文献、WBの第一人者として見解をご共有いただき、私たちコンサルタントだけでは気付けない大学教授ならではの視点を含めた調査設計・分析が実現できました。

Q.アンケート調査を実施した背景を教えてください。

古川：人的資本経営の潮流や働き方の多様化により、WBとWEに関心を寄せる企業の増加を受けて実施しました。コロナ禍を経てリモートワークが急激に増えたことで、社員の考えていることが分かりづらくなりました。それによって、仕事に対する充実した心理状態を示すWE、社員の幸福度を示すWBに関する指標が注目されるようになったのです。

また、「人的資本経営」という言葉がビジネスの世界で広く認知されていることも背景にあります。これは、人材を企業の資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値を高める経営手法のことです。多くの企業が、社員一人一人の投資対効果に注目するようになり、生産性につながる、活力の高い職場が重視されるようになってきています。

さまざまな企業のコンサルティングを担当させていただく中で、定量的なデータとしてこれらの指標を求められることが増えてきました。提案の際にベンチマークとなるデータの必要性を感じ、アンケート調査を企図しました。

コンサルティング事業本部　組織人事ビジネスユニット HR第3部　ディレクター　古川

アンケート調査が、企業を、そして社会を変える

Q.アンケートの結果からレポートを作成するまで、どのような流れで行われるのでしょうか？

山近：まず、多くの調査・設計段階の仮説と集計データを基に、人的資本開示や組織風土改革といった観点で、特に検証すべき仮説をピックアップして、エビデンスになる過去のデータや先行研究、文献をリサーチします。そこで得た分析結果や解釈をプロジェクトメンバーと話し合いながら、レポートの方針を決めていく流れで進めています。

データ分析と結果の考察の観点は、大きく2つあります。1つは、シンプルに統計的な観点です。複数のデータの相関関係などを明らかにして、共通する因子を見つけ出します。そして、もう1つが人事領域の専門家としての観点です。企業や職種などの属性の観点、評価、配置などの人事制度・人事施策の観点からWB・WEへの影響について分析します。

古川：アンケートの分析は、若手メンバーが中心となって行いました。山近さんは、大学院にて統計学を専門的に研究していて、特に定量的なインサイトが必要となる今回のレポート作成において、その知見は大きな役割を果たしてくれました。

Q.分析をしていく中で、特に印象に残った結果はありますか？

山近：社員が「自分が何を求められているのか」を理解する、いわゆる「役割認識」がWEにとって重要である点です。職務の内容や責任、必要なスキルなどをまとめた職務記述書の有無によって、WEや仕事のパフォーマンスの多寡に大きな差が生じることが分かりました［²］。

コンサルティング事業本部　組織人事ビジネスユニット HR第3部　アソシエイト　山近

古川：職務記述書の有無がWEへ影響する例以外にも、会社や組織へのロイヤリティは、企業の方針や理念・ビジョンなどを、社員が認識しているかどうかで、大きく変わってきます。個人的に印象に残ったのは、課長などの組織リーダーの行動やマネジメント能力が、WEに直接的な影響は相対的に弱かったものの、WEに重要な「役割認識」などには大きな影響力を持っていた点です。つまり、組織リーダーの資質は、WEを高めるベースとなる要素であり、リーダーが会社の考え方をメンバーに伝え、役割認識を促すことが重要であることが明らかになりました。

【図表1】主要な因子を用いた共分散構造分析結果

（出所）当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より

Q.当アンケート調査に関して、今後の展望を教えてください。

古川：調査規模にインパクトがある上に、内容も時流に沿うものなので、研究者や人事実務者など、いずれの視点から見ても、非常に価値のあるレポートになったと考えています。実際、一部の顧客や研究機関から反響をいただいています。2万人規模のデータに驚かれるお客さまが多く、アンケート調査を基にディスカッションの依頼をいただくこともあります。

とはいえ、まだ掘り下げる余地のある調査なので、当社コーポレートサイトで公表している既存のレポートやコラムとは異なる観点から、今後も分析レポートを作成していく予定です。また、当社はこの領域において、「人材マネジメント施策効果の定量化」を目指しています。各施策がどのような因子にどう影響し、それが最終的に生産性や業績にどのように関係しているかを可視化して、より最適なソリューションを顧客や社会に提案・提言していきたいと考えています。例えば、どのような研修や経験がどのようなスキル向上にひもづいたか、企業の採用競争力やブランドがWBとどう関係しているかなど。これまで必ずしも定量的に比較できていなかったことを、明らかにできるかもしれません。もちろん本調査だけで実現できるわけではないですが、その他の人材・人事データと組み合わせた研究を続けることで、実現できるはずです。

山近：2万人規模のデータだからこそ見つけられる情報は、まだまだ詰まっています。そうした情報を得られるのは、このデータに直接触れられる私たちの特権です。見つけ出した分析結果を提案することで、企業の次の行動を促すことができる。そして、それが社員に伝播すると、行動変容につながり、社会が少しずつ変わっていくきっかけになるのではないでしょうか。

古川：複数の顧客との仕事を通じて、そうした社会的ムーブメントを起こせる可能性があるのが、コンサルタントの醍醐味だと個人的には思っています。当社には、さまざまな視点を持ったコンサルタントがいて、多種多様な角度から行動変容を促せます。そのケイパビリティを生かしながら、これからも新しい価値観を見つけていきたいです。

約2万人の社員を対象にWB・WEに関するアンケート調査の結果分析・インサイトをまとめた当社のレポートは、以下よりご覧いただけます。
「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果～【慶應義塾大学前野隆司教授監修】企業規模や職種、世代、出社頻度等で差～」

［ 1 ］当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果～【慶應義塾大学前野隆司教授監修】企業規模や職種、世代、出社頻度等で差～」
［ 2 ］当社コラム「会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果（4）職務記述（ジョブ・ディスクリプション）の有無で「ワーク・エンゲイジメント」に差が生じる」

古川琢郎（ふるかわ　たくろう）
コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット HR第3部
ディレクター
profile2011年に、東京大学大学院農学生命科学研究科生物環境工学専攻を修了。その後、外資系コンサルティングファームを経て、2017年に入社。人事戦略やピープルアナリティクスをはじめ、人事領域に幅広い知見を持っている。

山近祐揮（やまちか　ゆうき）
コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット HR第3部
アソシエイト
profile京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻修了後、2022年に入社。大学院では政治学を専攻し、特に「投票行動論」を専門的に研究していた。入社後は、社会課題を解決できる事業の創出に取り組むI&I部に半年間所属した後に、現職。

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 デジタルHR（タレントマネジメント、ピープルアナリティクス）

※所属・肩書は記事公開時点のものです

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