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2025/01/20

企業を動かす「気候変動」のこれまでとこれから

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2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降、環境問題、特に気候変動に対する世間の注目はさらに加速しています。その中で、重要な役割を担っているのが金融機関です。当社のフェローである吉高は、30年近くにわたって金融機関と環境問題の関わりについて研究し続けてきました。吉高の経歴に触れながら、専門領域にかける想いを紹介します。


金融から始まる環境ビジネス

Q.現在の仕事内容を教えてください。

「サステナブル金融」という専門領域を通じて、企業へのアドバイザーや大学の客員教授、官公庁の委員会など、さまざまな活動をしています。サステナブル金融とは、持続可能な社会と地球を実現するための金融であり、環境問題や社会課題を金融面から解決する手法です。

2015年に国連にてSDGsが採択され、多くの企業でサステナブルな取り組みが重要視されるようになりました。それに伴い、環境問題をはじめとした社会問題に関する取り組みをビジネスチャンスと捉え、企業がマーケットに参入してくるケースが増えてきています。そうしたサステナブル社会への移行の中で、企業に融資・投資をする金融機関はより重要な役割を担う存在になってきているのです。当社は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の一員として、コンサルティング部門やシンクタンク部門を通じて、企業や政府・自治体などの環境ビジネスを支援しています。

Q.「サステナブル金融」に興味を持ち始めたきっかけは何だったのでしょうか?

興味を持ち始めたのは1990年代前半のことです。当時、外資系金融企業のニューヨーク支社で働いていました。バブル経済の真っただ中で周りの金融業者が浮かれているのを見る度に、「いつかバブルははじけてしまうのにこのまま続けてもいいのだろうか」と危機感を抱いていたのです。

自分のやるべきことを模索する中で、ニューヨーク大学の夜間講座“Business & Environment”がサステナブル金融と出会うきっかけでした。当時の日本において、社会問題の解決に携わることはコストがかかることとして認識されていました。その講座の中で、環境問題をはじめとした多くの社会課題を解決することが、ビジネスにつながることを知ったのです。金融機関で働いている経験を生かしながら、社会に貢献ができる。「私がやりたいことは、まさにこれだ」と確信しました。

「サステナブル金融」
ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 フェロー(サステナビリティ) 吉高

中長期的なビジョンで未来を支えていく

Q.環境ビジネスに対する企業の価値観はどのように変遷していったのでしょう?

1998年に米国で環境を学び終えて、留学から日本に戻ってきましたが、当時の日本では金融業界と環境問題が切り離されて考えられていました。中長期的なビジョンで進める環境ビジネスでは、特に私が関心のあった排出権取引がマネーゲームとして懐疑的に見られていたのです。

そんな日本において、金融機関が環境ビジネスへの関心を寄せるようになった分岐点は大きく二つあると考えています。一つは2008年に起きたリーマンショックです。リーマンショックの原因の一つは、企業や金融機関が短期的な利益を追求したこととされています。その反省から、2006年に国連で採択された、ESG投資[ 1 ]の起源とも言われる責任投資原則(PRI)が、機関投資家から重視され、中長期視点から投資判断をされるようになり、企業の中長期的ビジョンによるビジネスが少しずつ評価されるようになったのです。

そして二つ目が、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したこと。これをきっかけにより多くの企業が「ESG投資」に関心を持ち始めました。また、一部の企業や金融機関においてグリーンボンド[ 2 ]などに関する取り組みが進み始めました。

Q.現在のサステナブル金融についていかがお考えでしょうか?

極端な気象現象や頻発する自然災害など、近年の気候変動問題を肌で実感している方は多いのではないでしょうか。これは、私たちを含めた高度経済成長期やバブル期の先人たちが短期的な利益を追求してきた結果なのかもしれません。その反省を生かして、私たちは中長期的なビジョンを持って、次世代やその次の世代のために責任を果たしていく必要があります。社会課題も複雑化する中、加速度を増して、環境や社会課題に関する取り組みを進めていかなければなりません。とはいえ、サステナブルな取り組みに関してコストの側面で懸念を持つ企業はいまだに多く存在します。企業にとって、コストを抑制しリスクを極小化しながらビジネスを維持していくという発想は理解できますが、そうした中で、環境問題などの解決は多くのビジネスチャンスの可能性があることを企業に伝えていく必要があると思っています。

現在のサステナブル金融について

Q.今後どのようなビジョンを描いていますか?

当社は、シンクタンク機能やさまざまな企業のコンサルティングに携わってきた知見やノウハウを生かして、多くの企業のビジネスチャンスの可能性を見いだすことができます。例えば現在、私はさまざまなステークホルダーが協力して行っている奄美大島におけるブルーカーボンに関するプロジェクトをサポートしています。ブルーカーボンとは、大気中の二酸化炭素を海藻や海洋生物が吸収し、海底の泥に貯留された炭素のこと。二酸化炭素の吸収源として役割が期待されています。

こうした取り組みに関して特に大事なのは、一つの組織での解決は難しい問題においても、それぞれの専門領域を掛け合わせれば、社会課題を解決しながら新しいビジネスを生み出せることにあります。当社では、それぞれの領域の専門家がいて、さらには、MUFGのネットワークもありますので、それを掛け合わせれば、社会課題の解決を通じた社会的価値の向上と企業の経済的価値の向上を同時に実現できるはず。多くの企業が従来の発想を超えた新しいビジネスを生み出せるよう、当社は、そのバックアップを担いながら、社会をより良い方向に変えていきたいと思っています。


1 ESG投資 サステナブルな社会の到来と成長の実現を後押しするために、環境問題や労働問題など社会が抱えている課題について、適切な配慮や企業統治(コーポレートガバナンス)を行っている企業に対して行う投資
2 ]グリーンボンド 企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券


吉高 まり

ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 サステナビリティ経営支援室長
フェロー(サステナビリティ)
吉高 まり(よしたか まり)
profileIT企業、米国投資銀行等で勤務。2000年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(当時:東京三菱証券)入社、クリーン・エネルギー・ファイナンス委員会を立ち上げ。2020年5月に当社に入社し、現在に至る。国内外で、環境金融コンサルティングに長年従事してきた。その他にも、環境省や経済産業省などの研究会・委員会、東京大学の客員教授、慶應義塾大学の特別招聘教授なども務める。

関連サービス
気候変動(脱炭素、エネルギー、排出量削減戦略、TCFD)
ESG投資・金融(サステナブルファイナンス)
サステナビリティ経営・ESG情報開示

※所属・肩書は記事公開時点のものです

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