facebook x In

2024/12/26

地域の持続的発展へ「食農循環」が今と未来をつなぐ

facebook x In

未来社会をデザインしていくために、オープンイノベーションは重要なキーワードです。当社は、企業をはじめ研究機関や行政機関などさまざまなステークホルダーをつなぐハブとなって、イノベーションのきっかけを作り出しています。その一つが、コンサルティング部門とシンクタンク部門が協働して取り組む食農循環プロジェクト。同プロジェクトを主導したコンサルタントの木下と研究員の加藤が、その概要やかけた想いを語ります。


「食」と「農」の好循環が持続可能なシステムを生み出す

Q.「食農循環」とはどのような考え方なのでしょうか。

木下 食農循環とは、農産物が消費者の元に届くまでの流れが一連の過程で循環していることを指します。肥料や作物の苗を調達し栽培する農業、収穫された農産物を加工する加工業、消費者に届ける流通・小売業を経て、農産物は消費者の元に届きます。そのフローが、消費者で止まることなく循環していくことが食農循環です。

加藤 食品ロスのアップサイクルなどは良い例ではないでしょうか。食農循環に関する取り組みを行うことで、社会全体が自然と共に循環して、持続可能な社会を実現することにつながります。

木下 気候変動問題やESG投資[ 1 ]が注目されている現在、多くの企業が食農循環の取り組みを進めています。社会起点と自然環境起点のさまざまな視点から、食農循環システムに良い影響を与えようと動き始めているのです。

「食農循環」とは
コンサルティング事業本部 プリンシパル 木下

Q.食と農業に好循環を生み出すためにどのような取り組みをしているのでしょうか?

木下 2023年8月より、東海地方のとある観光地において、食農循環ビジネスの可能性を追求するプロジェクトを実施しています。名古屋大学や行政機関、観光事業者など各ステークホルダーと連携し合い、当社はそのつなぎ役として社会課題解決に向けて動いています。

加藤 この地域では、宿泊施設から出る調理くずや食品ロスといった食品廃棄物のほとんどが焼却処分されていました。その課題を解決するために、食品廃棄物由来の特産品を作ったり、廃棄食品を農地の堆肥として利用したり、さまざまな切り口で食品廃棄物を再活用する仕組みを検討しています。

【“食農循環”バリューチェーン構想】
“食農循環”バリューチェーン構想
※バイオプロセス:微生物の代謝プロセス活用などによる、バイオマスの加工や食品生産プロセスのこと。今回は食品ロスの加工・再活用のプロセスを指している。
※コールド&ドライチェーン:商品の原材料の調達から生産、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れを、低温かつ最適な温度管理で行うことと、気候変動により増加する水蒸気を適切に保つこと。
※リンリファイナリー:食品廃棄物や下水汚泥焼却灰などからリンを回収し、肥料や飼料などに再利用するシステムのこと。

産学連携により未来社会をデザインする

Q.専門領域の異なる二人ですが、どのようなきっかけで同プロジェクトが発足したのでしょうか?

加藤 もともと官公庁からの受託事業を行う中で、同地域の自治体と接点がありました。受託事業において、“食品廃棄物などの環境問題を解決したい”“観光地の価値アップデートを図りたい”といった地域の想いをいかに叶えるかを考える中で、別の動きで「産学連携」のプロジェクトを進めていた木下さんよりお声がけをいただきました。

木下 食農循環に関する取り組みは、複合的な課題が絡み合っているため、机上で考えながら解決するだけでなく、実際に現場で取り組みを実践していく必要があると思っていました。当時から私たちは、名古屋大学や岐阜大学を法人化した東海国立大学機構と協力して産学連携を推進する取り組みに携わっています。一緒に食農循環をテーマに戦略を考える中で、加藤さんたちの取り組みを知り、イノベーションを起こすビジネスモデルを生み出せると考えました。

産学連携により未来社会をデザインする
政策研究事業本部 副主任研究員 加藤

Q.同プロジェクトを通じてどのような成果を感じていますか?

加藤 産学連携によって社会課題を解決できる仕組みを生み出せたのが大きな成果です。おそらく当社が大学と連携して社会課題解決に取り組んだ初めての事例ではないでしょうか。

木下 産学連携にとどまらず、社会課題を現場で実感している行政機関とも協力関係を築けていること。それも大きな成果だと思います。コンサルティング事業は民間企業主体で考えるイメージが強いかもしれません。ですが、食品廃棄物や食農などの社会課題解決の取り組みは、民間企業主体で収益性を生み出して事業継続することが難しいのです。そのため、社会課題解決を結びつけられる産学官連携・企業間連携によって、エコシステムを創造することが重要だと考えています。
その一つの取り組みとして、私たちの「未来社会デザイン」では、 “観光業”に注目し、一定の収益性を見込める市場を考えました。民間企業との連携を得意とするコンサルタントと、政策・産業に関する知見と官公庁のリレーションを強みとするシンクタンク部門の研究員が協働することによって、当社らしいアプローチでこのプロジェクトを実現できたのです。

Q.プロジェクトを通じて、今後めざしていくことを教えてください。

加藤 持続可能な事業を生み出すためには、参画する各事業者が収益を獲得できる仕組みづくりも重要です。その点でまだ課題は多く残っています。新しく大学の知識や技術を交えて検討することで、それを打破できる解決策を生み出せるのではないかと思っています。

木下 当プロジェクトで得た縁は、その他のプロジェクトにおいても生かせるはずです。さまざまな場面において、当社が各ステークホルダーをつなぐハブ役として機能し続けていくことが大切だと考えています。“知”を生み出し続ける大学と、その知をニーズに合わせて社会実装することができる企業や行政機関がタッグを組むこと。そのつなぎ役として、新しいイノベーションを生み出し続けていきたいです。


1 ESG投資 サステナブルな社会の到来と成長の実現を後押しするために、環境問題や労働問題など社会が抱えている課題について、適切な配慮や企業統治(コーポレートガバナンス)を行っている企業に対して行う投資

    寺野 真明

    名古屋大学 未来社会創造機構 オープンイノベーション推進室 特任教授
    株式会社Tokai Innovation Institute取締役
    寺野 真明さん

    日本は今、「都市集中型」「地方分散型」という二つのシナリオを選ぶ分岐点にあると言われています。そんな中で、日本の農村地帯はそれぞれ多くの課題を抱えているのが実情です。その課題解決に向けて、大学ではさまざまな専門領域から研究を進めています。しかし、研究成果が社会実装に至るまでには、さまざまな障壁を乗り越えなければなりません。木下さんや加藤さんをはじめとした三菱UFJリサーチ&コンサルティングの皆さんに、各事業者とをつなぐコーディネーターとして協力いただいていることで、私たちは研究の本当の価値を見いだすことができます。これからも力をお借りしながら、長期的視点を持って持続可能な社会の実現に向けて取り組みを進めていきましょう。

木下 祐輔

コンサルティング事業本部
社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部 プリンシパル
ストラテジック・フューチャリスト
木下 祐輔(きした ゆうすけ)
profile東京工業大学大学院理工学部研究科地球惑星科学専攻を修了後、2007年に入社。中期経営計画や新規事業などさまざまなコンサルティングを担当。2050年を見据えた未来予測や技術動向、社会課題認識などを通じて戦略検討をする「未来戦略ユニット」責任者。

関連サービス
成長戦略/新規事業戦略
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)支援
未来予測・バックキャスト・新産業戦略コンサルティング支援

※所属・肩書は記事公開時点のものです

加藤 千晶

政策研究事業本部
研究開発第2部(名古屋) 事業戦略・マーケティンググループ 副主任研究員
加藤 千晶(かとう ちあき)
profile京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻を修了後、2016年に入社。主な専門領域は「観光政策」「まちづくり」など。名古屋市を拠点として、東海エリアを中心とした行政機関向けに、観光戦略の立案や観光マーケティングの支援などを担当している。

関連サービス
観光
農山漁村振興(農業×地域社会)
地方自治体における個別分野の行政計画

クローズアップトップ

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。