水産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の可能性とは?
水産資源は、海に囲まれた日本の食卓に欠かせません。しかし、「FAO(Capture production, Aquaculture production 1965-2015)」および農林水産省「漁業・養殖業生産統計」によると、世界の漁業生産量は、2015年時点で30年前の2倍に拡大しているのに対し、日本ではおよそ半減しています1。この背景にあるのは日本の漁業就労者の減少および高齢化です。低迷が続く日本の水産業界では、デジタルトランスフォーメーション(DX)がもたらす改革が期待されています。本稿では「作業環境」「データの利活用高度化」「水産業ブランディング」の3つに分けて水産業におけるDXの可能性をご説明します。
1.作業環境のDX化がもたらす業務品質の向上
生産者の勘や経験に基づいて進められることが多い漁業の作業環境をDX化することで、業務品質の向上が期待されます。そのために3つの側面からのアプローチが考えられます。1つ目は、生産オペレーションです。“データを元にした最適なオペレーションの構築”により、漁獲においては取れ高の増加、養殖においては生産物の安定供給が期待されます。2つ目は作業の自動化です。人手による危険な作業を自動化することで、事故防止が図れます。3つ目は”作業ノウハウの標準化”です。ナレッジマネジメントシステムなどの活用により現場の知見を蓄積し標準化することで、労働作業の質を一定に保つことが可能です。
2.データの高度な利活用がもたらす収益性の確保と水産資源管理
データの利活用も重要なポイントです。たとえば、船上から陸側へ正確な漁獲データを提供することで、リアルタイムで漁獲量や魚種の見込みを把握することが可能になれば、収益性の確保や水産資源管理の充実につながると期待されています。
総務省が平成27年度事業で取り組んだ「海洋ビッグデータを活用したスマート漁業モデル事業2」は、海上情報のリアルタイム把握による精度の高い漁場予測の実現と操業コストの削減の可能性を実証しました。ある水産株式会社を例にコストへの影響を試算したところ、人件費・燃料費ともに25%程度の削減効果が得られています。また燃料の節約による水質環境保全効果も見込まれます。
3.DX化による水産業のリブランディングおよび新しい人材の誘引
水産業のDX化は新規就労者の増加につながることも期待されます。なぜなら、これまで肉体労働が中心だった水産業でDX化が推進された場合、インフラ整備、システム構築といったIT化推進、生産管理、需要予測などのデータ分析を担当するナレッジワーカーが必要となるからです。
DX化が水産業界の業務を知能労働に昇華させることは、水産業の新たなブランディングになります。若者を中心とした、新しい人材層を呼び込む可能性を秘めているとも言えるでしょう。
さいごに
三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、水産業とIT業界の双方で就労経験を持つコンサルタントが、培った知見を活かし、水産業界のお客様の経営改革をご支援いたします。 ご検討の際はぜひご相談ください。
1 内閣府 規制改革推進会議 水産ワーキング・グループ「我が国水産業の現状と課題」
2 総務省 「海洋ビッグデータを活用したスマート漁業モデル事業」
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