タイ子会社の余剰資金をどうするか~効率的なグループ資金活用に向けて~

2021/12/13 吉田 崇
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タイ

タイではこれまで日本企業の進出が続き、現在は事業再編・資本再編が相次いでいることについては、別コラム「タイ子会社の再編における目的とは?」(2021年6月11日掲載)でお伝えしました。

タイでの事業を進めてきた中で、業績が順調に推移し、タイ子会社に利益が蓄積されている、というのはとても望ましい姿です。一方で、蓄積された利益をどのように活用するか、という点について、あらかじめ十分に検討されている例ばかりではありません。むしろ日系企業によっては、本音ではタイ子会社に利益がそれほど溜まる想定がなかったにもかかわらず、適切な対応を先延ばしにした結果、予定外に金額が膨らんでしまった、という例も散見されます。そうした資金をいざ活用しようとしても、大きな外部流出など「予期せぬ」課題が発生することもあります。

本コラムでは、タイ子会社における代表的な資金活用の手段である「配当」「投資」「融資」の3つについて、形態が合弁企業か、独資企業かに分けてポイントをご紹介します(図表)。

1.出資比率に左右される「配当」

利益処分の代表格が配当であることは、タイ子会社の場合も変わりません。しかし、その形態が合弁企業か独資企業かによって、注意すべき点が異なります。 日系タイ企業の多くは、外資規制に基づく合弁企業となっています。タイ側パートナーが過半数の株式を持つことから、配当は多額の外部流出を伴うリスクがあります。この場合、まず独資化に向けた再編の可能性を検討することが求められます。本当に合弁である必要があるのか、規制上だけでなく、営業上や管理上の観点からの一考も必要です。 タイ子会社が独資の場合は、パートナーへの外部流出はありません。ただし配当には源泉税が課されますので、税制優遇を受けるためには、統括拠点化による恩典取得を検討します。

2.案件あってこその「投資」

合弁企業のタイ子会社がタイ国内の他法人に対し出資をする、という例は多く見られます。しかし、これも外資規制に対応するためのスキームであって、通常は金額が大きくならないこともあり、資金活用という観点からは有効と言えるケースは少ないのが実情です。外資規制が関係しないタイ国外への投資があまり見られないのも、合弁における投資の難しさを示しています。

独資の場合は、日本の本社に利益を一旦戻してから投資するよりも、タイ子会社からタイ国内外に投資する方が税制上も有利となるケースがあります。もっとも、適切な事業計画や案件がないままタイから出資しようとするのは本末転倒です。投資戦略や、グローバル戦略におけるタイ子会社の位置付けも含めて、総合的に検討されるべきものと言えます。

3.注目高まる「融資」

最近にわかに注目が高まっているのが、タイ国内外のグループ企業に対するタイ子会社からの「融資」です。特に独資の場合、これまでは実施のための許認可取得の面で高いハードルがありましたが、最近になって大幅に規制緩和されたことが背景にあります。ただし、貸し付ける相手やスキームによっては、なお許認可が必要となる点には注意が必要です。

従来から規制を受けない合弁の場合も、金利収入が得られるだけでなく、融資を受ける側の資金需要を満たす、というグループ全体としてのメリットがあります。解約などの手続きの部分で、投資より「使い勝手が良い」のも特徴です。

さいごに

タイ子会社の資金活用を考える場合、ASEANにおける財務戦略や、タイ子会社の財務統括拠点化という課題にも留意する必要があります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、タイ子会社(MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.)と連携しながら、多くの日系企業の事業戦略や拠点再編を支援しています。ご検討の際はぜひご相談ください。

図表 配当・投資・融資における主な課題と検討事項

合弁タイ子会社 独資タイ子会社
配当

■配当の過半数が外部流出する
・独資化の検討

■配当(支払)に源泉税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

■配当(支払)に源泉税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

投資

■外資規制対応以外の目的有無
・投資目的の検討

■配当(受領)に法人税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

■投資案件の有無
・投資計画の検討

■配当(受領)に法人税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

融資

■移転価格税制の適用を受ける
・適正な金利水準の検討

■金利に特定事業税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

■融資先とスキームによっては規制が残る
・規制有無の検討

■移転価格税制の適用を受ける
・適正な金利水準の検討

■金利に特定事業税が課される
・統括拠点化による税制優遇の検討

執筆者

  • 吉田 崇

    コンサルティング事業本部

    社会共創ビジネスユニット グローバルコンサルティング部

    シニアマネージャー

    吉田 崇
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