攻めのガバナンス|事業ポートフォリオマネジメント態勢整備による「適切なリスクテイク」の要諦

2022/03/22 柳谷 公彦
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事業ポートフォリオマネジメントの重要性

長期間にわたる低迷が続き、「失われた30年」と表現される日本経済において、企業の「稼ぐ力」を取り戻す一環として求められているのが「攻めのガバナンス」の構築です。東京証券取引所が策定した「コーポレートガバナンス・コード1 」では、企業が「適切なリスクテイク」をするための態勢整備、そのための施策としての事業ポートフォリオマネジメントについて記述されています。これらが求められる背景には、多くの日本企業が、リスクを懸念するあまり、低収益事業から撤退し経営資源を新規・成長事業に振り向けるといった新陳代謝を、自ら起こせていないという問題意識があります。そこで本稿では、適切なリスクテイクをしながら事業ポートフォリオマネジメントを実効的なものとして機能させるために、企業が考慮すべきポイントを概説します。2

ポイント(1)取締役会・社外取締役による支援・監督

多くの日本企業では、取締役会において事業ポートフォリオに関する基本方針が定められておらず、ポートフォリオの見直しについても議論されていないケースが見受けられます。その結果、経営に対する監督が機能せず、低収益事業を抱え込み続けてしまいます。

まず優先すべきは、事業ポートフォリオの基本方針で、事業の構成や経営資源の配分について定めることです。ここで重要となるのは取締役会が、売上や利益といった絶対額だけでなく、資本効率を重視した経営のための態勢整備を後押しするとともに、その実行状況を適切に監督することです。特に独立的な立場から発言できる社外取締役の役割は大きいといえます。

ポイント(2)経営者による基盤・プロセスの整備

経営者は、基本方針に基づき事業ポートフォリオ管理のための基盤・プロセスを整備することが必要です。

経営資源の配分では、経営者の経験や勘のみに頼るのではなく、定量・定性両面の情報に基づいた判断が不可欠となります。具体的には、定量面では事業ごとの売上・利益といった絶対額に加え、資本効率を計るための財務指標3 を把握し、定性面では、たとえば自社にとっての事業の意義等も検討するべきです。

また事業の最適化を考える上では、リターンの側面に加えてリスクについて議論することも欠かせません。リスクは定性的に把握するだけではなく、可能な限り定量化4 することにより、経営会議や取締役会において議論がしやすくなります。経営者はこれらの情報を定期的にモニタリングし、状況が悪化した事業は撤退を検討することになるため、そこ至るプロセスも整備します。

こうした基盤・プロセスに基づいて、実質的な議論を促進することは経営者の重要な責務といえます。

ポイント(3)社内外のステークホルダーとの対話 ~強い意志の表明

一方、事業ポートフォリオ管理のための基盤・プロセスを整備し、そのうえで事業の撤退を検討することになったとしても、経営者にとって過去からの主要事業を切り離すという判断は難しいものでしょう。さまざまなしがらみにより、投資家や社内関係者等のステークホルダーから強い抵抗を受けることも大いに予想されます。最終的には、自社の存在意義や目指す姿に照らして、この事業は自社にとって必要だ(あるいは不要だ)、という経営者としての強い意志を語れるかどうかが鍵になります。

最後に

当社では、実効性のある事業ポートフォリオマネジメント態勢の整備をはじめ、各種支援を行っております。ご検討の際はぜひご相談ください。


1 2015年6月に初版が公表され、その後2018年6月、2021年6月の2度にわたって改訂がなされた。日本取引所グループのコーポレートガバナンス・コードに関する情報を参照されたい。(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html

2 経済産業省が2020年7月に公表した「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の再編に向けて~(事業再編ガイドライン)」が参考になる。

3 代表的な指標として、自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)などが挙げられる。

4 リスク定量化の手法の例としては、バリュー・アット・リスク(VaR)などがある。

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