自治体DX~住民ファーストな自治体を目指して~

2022/06/29 三浦 志文
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テレワークの急速な浸透に伴い、一般企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)が話題となっています。このDXの波は、住民の生活基盤を支える地方自治体にも押し寄せています。

日本においては、2020年12月25日に「デジタル社会実現に向けた改革の基本方針」が閣議決定されました。その中で「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」を目指すことが示されています。総務省は、この方針の実現に向け、自治体、特に市区町村の役割が極めて重要であるとしています。 本コラムでは、自治体DXを進める上でのポイントを踏まえ、自治体DXのあるべき姿は何かを考えます。

自治体DXの全体像 -自治体DXで取り組むべき事項-

国の基本方針に伴い閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」を基に、総務省は令和2年12月に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定しました。同推進計画では、自治体が重点的に取り組むべき事項として以下の6つの項目が示されました。

<重点取組事項>

自治体の情報システムの標準化・共通化/マイナンバーカードの普及促進/行政手続のオンライン化/AI・RPA1の利用促進/テレワークの推進/セキュリティ対策の徹底

自治体DXは、重点取組事項にも記載されている通り、自治体業務全体を通した業務処理プロセスの改善(BPR)、およびデジタル技術の活用が求められています。自治体がDXに取り組むきっかけはさまざまなケースが想定されますが、当社では、自治体DXへ向けて必要となるステップや検討ポイントを下記の通りと想定し、整理しています【図1】。

【図1】自治体DXへ向けて必要となるステップと検討ポイント(例)

図 自治体DXへ向けて必要となるステップと検討ポイント(例)

(出所)当社作成

行政手続のオンライン化

自治体DXにおける重点取組事項にはさまざまなテーマがあります。このうち、「行政手続のオンライン化」は、住民サービスにも直結する取り組みであり、かつさまざまな場面で非対面/非接触での対応が求められる昨今においては、特に重要なテーマのひとつです。

行政手続のオンライン化に関しては、当社にも各自治体から支援依頼が多く寄せられています。当社が実際に支援した事例を参考に、行政手続をオンライン化する際の課題点と対応策を整理します【図2】。

【図2】行政手続きのオンライン化に伴い起きうる課題と解決策(イメージ)

図 行政手続きのオンライン化に伴い起きうる課題と解決策(イメージ)

(出所)当社作成
*2 会津若松市における「オープンデータQ&A」に関する事例

起きうる課題としては、方針があっても行政手続の担当部署で何を実行すれば良いかわからず改革が停滞する、外注化に頼り切って知見が蓄積されない、住民の生活を支えるインフラである自治体業務の改革に対し職員が心理的ストレスを感じる、といったことが挙げられます。また、サービスを受ける側の住民のITリテラシーの度合いにより、デジタル化されたサービスが十分に利活用されない場合もあります。

自治体DXを進めるためにはこれらの課題が起きる可能性を前提とし、解決策を準備する必要があります。具体的には、全庁的なデジタル化方針を打ち出し、親しみやすいデザインを取り入れたガイドラインやマニュアルを導入し、業務改革に対する心理的ストレスを排除しながら自治体職員のITリテラシーを向上させることが考えられます。また、住民側においても、住民の身近な場所でITリテラシーを向上させる機会を提供するなどして、自治体と住民、双方のデジタルに対する意識改革をしていくことが重要であると言えます。

将来の行政と住民のあり方 -自治体DXのあるべき姿-

本コラムでは、「行政手続のオンライン化」を起点とした自治体DXに関する当社の支援事例を見てきました。各テーマをきっかけに自治体DXへ向けた改革を開始したとしても、結果的には、業務処理プロセスの改善(BPR)や情報システムの標準化など、自治体内でのさまざまな改革が必要です。

庁内全業務の棚卸や、それに紐づく業務プロセスの改革を通常業務と並行して進め、さらに住民サービスの向上のためにDXへ向けたさまざまな普及促進活動も同時に行っていくには困難な部分もあります。とはいえ、これら自治体DXに向けたステップは一貫して行うことが重要です。DXは全庁的なマネジメント体制の下で推進することで、より質の高い住民サービスを提供するという自治体の本質的な存在意義に近づくことができます。また、住民側においても、デジタル化された自治体サービスを積極的に利用することは、自治体DXをより良い方向へ加速させるために必要となるフィードバックや、データを提供することにつながります。

自治体DXの目的は、「住民がその自治体に住んで幸せだと感じる」ことであり、自治体自らの業務効率化を含め、そこに住民視点があるかが求められています。これまで行ってきた自治体業務を、単に「ICT化」するのではなく、自治体内の住民の生活がデジタルの力によってより豊かなものとなるように、行政と住民が一体となって「デジタル・トランスフォーメーション」へ向けた改革の好循環を生み出しながら、自治体DX実現のためのステップを繰り返していく。これこそが、自治体DXのあるべき姿であると言えます。


1 RPA:robotic process automationの略

執筆者

  • 三浦 志文

    コンサルティング事業本部

    デジタルイノベーションビジネスユニット デジタルトランスフォーメーション推進部

    マネージャー

    三浦 志文
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