前回のコラムでは、製造DXについて推進のポイントを説明した他、DXを具現化したスマートファクトリーについて解説しました。本コラムでは、スマートファクトリーを実現する手段であるAI/IoTの業務への適用事例に関して、製造DX推進の両輪である①製品・サービス価値向上、②製造プロセス改革の観点からご紹介いたします。
製造DX(1)~製造業におけるデジタルトランスフォーメーションとは~
AI/IoT活用事例
製造分野におけるDX推進のポイントは、データやデジタル技術を活用した①製品・サービス価値の向上、②製造プロセス改革という2つを両輪として、経営改革を行うことです。
①製品・サービス価値向上においては、帳票電子化やデータ整理などを行い、蓄積した大量のデータをシステムに取り込み、分析する必要があります。ここで活用できるのがAIです。AIによるデータ分析は手作業の分析と比較し、顧客や市場が求める価値や時間軸に対して、高精度かつ迅速に対応できます。具体的な事例として、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)活用による素材の研究開発の効率化、化学製品など市況に左右されやすい製品の需要予測、飲料の商品開発における品質アセスメントAIなどが挙げられます。
②製造プロセス改革の具体的な事例として、IoTインフラの整備とビッグデータの収集・解析、AIを活用した化学工場における運転条件最適化、ベテラン作業者が持つ暗黙知の形式知化などが挙げられます。このような製造プロセス改革を進めるにあたって、重要となることは3つ挙げられます。1つ目は、製品を生産する機器や上位の制御機器にデジタル技術を活用し、製造工程や工場運営を可視化することです。そのためには設備投資を行い、IoTインフラを整備する必要があります。2つ目は、事業部門や企業全体でデータを利活用することです。IoTインフラから収集・蓄積したさまざまなデータをAIで分析し、複雑なデータをパターン化してとらえることで、シミュレーションや異常検知、予知保全、技術継承を実現できます。3つ目はデジタル技術活用に軸足を置くのではなく、生産工学や価値工学、言い換えれば「より良いものづくりシステム」に資する作業改善や製品の機能向上、コスト削減の手法を理解した上で、AI/IoT活用を通じた製造プロセス改革に取り組むことです。
製造DXの推進において①製品・サービス価値向上、②製造プロセス改革を実現した事例もあわせてご紹介します【図表】。DXによる「見積・受注・製造の自動化」を実現した株式会社ミスミグループ本社では①製品・サービス価値向上の観点では、AIによる機械部品製作の自動見積によって、FAX送信や見積待ち時間を削減し、顧客サービス向上を実現しました。②製造プロセス改革の観点では、部品工作機械にアップロードする製造プログラムを自動生成し、受注から製造までを自動化しました。
【図表】製造業DXを推進する企業におけるAI/IoT活用事例
(出所)文末参考文献より
最後に
本コラムでは、製造業におけるAI/IoTなどのデジタル技術活用という観点で事例をピックアップし、①製品・サービス価値向上、②製造プロセス改革の観点で整理しました。ただし全ての事例が他企業に当てはまるとは限らず、事例のみを基に製造DXに取り組むことは難しいと考えています。製造DXに取り組むには、デジタルツールのような手段を前提とするのではなく、自社の課題を把握しあるべき姿を定義した上で、デジタル技術を活用した課題解決に臨むことが重要です。
具体的には、「現状調査・分析→課題抽出・方針立案→PoC(試験導入・効果測定など)→方針見直し・計画策定」というステップを踏んで製造DXを進めることが有効です。一方、システム面だけでなく人材面での課題もあり、自社の人的リソースが不足している場合は外部サービスの利用も選択肢となります。
当社では製造業のお客さま向けに、製造DXの初期ステップとして、簡易工場診断コンサルティングサービスを提供しています。まずは自社の課題把握にお困りの際は、ぜひご相談ください。
参考文献
2. 三井化学、NEC・dotDataと連携し、AIを活用した市況商品の価格変動予測の実証実験を実施 | 三井化学株式会社
3. 「アセスメントAI」の試験運用を開始 | キリンホールディングス株式会社
4. スマートファクトリー | キオクシア株式会社
5. 「自律型生産システム」を開発 | 株式会社ダイセル
6. 三菱重工、Google Cloud「Vertex AI」で工場の生産性改善に取り組む | ASCII
7. 原燃材料の自動管理システム「Smart Inventory System」を開発 | AGC株式会社
8. 【ミスミ】製造業の現場を超効率化させた部品調達プラットフォーム | TECHBLITZ
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