経営戦略としての「ウェルビーイング経営」

2022/08/30 近間 泰史
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2021年3月に有志企業・有識者・団体が「日本版Well-Being Initiative」を立ち上げ、ウェルビーイング経営に関する知見を集約・共有する取り組みを打ち出すなど、昨今、「ウェルビーイング経営」という言葉を耳にする機会が増えてきています。ウェルビーイング(Well-Being)とは、世界保健機関(WHO)憲章前文で、「身体・精神・社会的に満たされた状態」と定義されています。企業における健康概念に関する取り組みと言えば、健診受診率の向上や、生活習慣改善、メンタルヘルス対策などにより、従業員の心身の健康維持・増進を目指す「健康経営」も浸透しています。ウェルビーイング経営はこの発展形として、従業員エンゲージメントの向上や組織活性化といった社会的要素にも着目し、やりがいを持って生き生きと働ける職場の実現を目指す点が特徴です。本稿では、ウェルビーイング経営を推進する際に重要なことは何か、国内外の企業における先行事例を通じて概説します。

今、なぜウェルビーイング経営か

ウェルビーイングを実現する必要性は、世界の共通目標となっているSDGsにも表れています。特にGoal3の「すべての人に健康と福祉を」やGoal8の「働きがいも経済成長も」を踏まえ、「従業員のことをどの程度考えた経営をしているか」といった観点から評価する投資家は少なくありません。

先行企業の取り組み事例

それでは、具体的にどのようにウェルビーイング経営を推進していけばよいのでしょうか。国内外の企業における事例を見ていきましょう。

まず、サステナビリティに向けた取り組みの一環としてウェルビーイングを位置づけているのが、ユニリーバです。独自の人事制度によって、仕事だけではなく家庭や私生活での充実を同時に追求する従業員が増加傾向にあり、価値観や働き方の多様化が進んでいる点が特徴です。Googleなども、社員のモチベーションを上げ、生産性を高めたり離職率を引き下げたりすることを目的に、ウェルビーイング経営に積極的に取り組んでいます。

日本では、楽天の取り組みが注目されます。CWO(Chief Well-Being Officer)をトップとする組織を立ち上げ、個人・組織・社会の3階層でウェルビーイングを定義し、従業員や組織風土にとどまらず、サービスやデータといった楽天の強みを生かした社会全体のウェルビーイングの向上実現を目指しています。

他にも、丸井グループは、中期経営計画において自社の目標としてウェルビーイングを位置づけ、ウェルネス(身体・精神の健康)、ストレングス(自身の強みの発揮)、リレーションシップ(人間関係)、パーパス(目的との合致)の4段階1でウェルビーイングの実現に向けた活動をしています。トップ層を対象にしたレジリエンスプログラムの他、社員が積極的に参画できる仕組みづくりにより、組織の活力向上などの成果につなげています。

国内外の企業における事例

(出所)公開情報より当社作成

ウェルビーイング経営に取り組むために

ウェルビーイング経営の推進には、「ウェルビーイング経営」を経営戦略としてとらえ、実現に向けた具体的なアクション・成果指標を構築していくことが重要です。経営陣が方向性を掲げるだけでは不十分で、具体的に何をするか、何が変わるかについて現場社員が納得することが、高いコミットメントの下での協働につながり、より高い成果を上げられるようになります。

また、ウェルビーイングの実現に向けた戦略を構築する際には、身体・精神の健康のみにとどまらず、組織活性度・エンゲージメント向上といった社会的な健康の実現に対しても、十分に検討することが求められます。また、自社内での完結にこだわらず、個別のサービスをうまく活用することも効果的です。

「ウェルビーイング」に確固たる定義が存在しない中、ウェルビーイング経営の推進に成功している企業では、自社の企業文化・沿革を踏まえた「ウェルビーイング像」を定義し、目標や成果指標を設定しています。今後、ウェルビーイングを経営戦略として掲げ、どのような取り組みが可能か検討する企業が増えることが予想されます。重要なことは、自社の性質に寄り添って「ウェルビーイング」を考えるという視点や、経営陣と現場が一体となって施策に取り組むことといえるでしょう。

(参照)
Well-Being Initiative: 設立趣意書
ユニリーバ HP: 地球と社会 
Google HP: 「効果的なチームとは何か」を知る
楽天グループ株式会社HP:従業員の健康・ウェルネス
株式会社丸井グループHP:人と社会のしあわせを共に創る「Well-being経営」


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