役員報酬の最新トレンド(2022年)(1)~報酬構成と業績連動指標~

2023/01/11 澤村 啓介、諏訪内 翔子、友野 雅樹
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近年、コーポレートガバナンスの重要性が一層高まる中、業績との連動性や透明性をより高めた制度を採用したり、開示範囲を広げたりする企業が増えています。2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改定においてサステナビリティに関する取り組みの開示が求められたことを受け、役員報酬制度にもESG等の非財務指標を反映していく企業がますます増加することが想定されます。本コラムでは、直近の有価証券報告書の記載事項に関する集計結果「報酬構成と業績連動指標」と「役員報酬に反映する非財務指標」の2回にわたり紹介することで、役員報酬の最新トレンドを明らかにします。今回は、「報酬構成と業績連動指標」についてご紹介します。

調査概要

集計対象企業

上場市場区分や企業規模によって役員報酬制度の内容や開示範囲が異なると想定されるため、集計対象をプライム市場時価総額上位100社、スタンダード市場時価総額上位100社に分けています[]。(以降、プライム市場上位100社、スタンダード市場上位100社と記載。ともに、時価総額は2022年6月30日時点)

集計結果

(1)報酬ミックス

プライム市場上位100社の報酬ミックスの平均[]は、基本報酬:STI(短期インセンティブ):LTI(中長期インセンティブ)=41%:30%:29%でした。基本報酬以外の割合が過半数を占めており、投資家をはじめとするステークホルダーとの利害共有を意識した報酬ミックスとなっているといえます。一方、スタンダード市場上位100社では、基本報酬:STI:LTI=84%:11%:5%で、基本報酬が中心となっています。

【図表1】報酬ミックスの平均[]
報酬ミックスの平均
(出所)当社作成

(2)業績連動指標

プライム市場上位100社のSTIおよびLTIに連動させる財務指標について、最多は営業利益(STIは65社、LTIは41社採用)、次いで当期純利益や売上高の順となっています。また、環境やガバナンス等、サステナビリティに関連する非財務指標については、STIで32社、LTIで48社が採用していました。一方、スタンダード市場上位100社の財務指標で最も多いのは、STIに連動させる指標では経常利益(23社採用)、LTIに連動させる指標では営業利益(13社採用)でした。非財務指標を採用している企業はSTI、LTIそれぞれ1社のみでした。

このようにプライム市場上位100社では、特にLTIにおいて積極的に非財務指標を取り入れているようです。プライム市場上位100社の非財務指標の詳細は、第2回のレポートで解説します。

【図表2】STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標(財務指標上位5指標と、非財務指標合計)[]
STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標
(出所)当社作成

(3)LTIのスキーム

プライム市場上位100社において、LTIのスキームとして最も多かったのはRS(リストリクテッド・ストック、譲渡制限付株式報酬)/RSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)で47社が採用しています。次いでPS(パフォーマンス・シェア)/PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)で、23社採用していることから、業績連動型のLTIスキームを使用している企業が一定数あるといえます。さらに、株式交付信託を採用している企業も23社ありました。信託型は、RU/RSUやPS/PSUについて信託を通じて運用する仕組みであり、会社の管理負担を軽減できます。

【図表3】プライム市場上位100社で採用しているLTIのスキーム[]
プライム市場上位100社で採用しているLTIのスキーム
(出所)当社作成

まとめ

プライム市場上位100社のうち、本調査において報酬ミックスが判断できた企業では、基本報酬以外の比率が半数を超えていること、PS/PSUの採用数が一定数を占めていることなどからも、業績連動を重視した役員報酬制度が主流となっているといえます。さらにLTIについては非財務指標を採用している企業が一定数ある等、財務指標以外へのコミットメントも意識した役員報酬制度の構築や開示が進んでいるとみられます。

一方で、スタンダード市場は基本報酬がメインで、業績連動指標は営業利益等の財務指標が中心です。報酬ミックスは役員報酬水準が低い場合、現実的に株式報酬比率を上げづらいことが考えられます。また、非財務指標を導入する場合、定量的に非財務指標に関連したデータを測定・蓄積できる社内環境が整備されている必要があります。LTIのスキームの検討には、会社の管理負担も重要な判断要素です。まずは現状とあるべき姿を比較し、改定のロードマップを作成したうえで、それに基づき段階的に制度をブラッシュアップしていくことも有効といえるでしょう。

次回は、業績連動指標のうち、特にプライム市場上位100社において導入が増えている非財務指標の内容や開示方法のトレンドをご紹介します。


[] 2021年度の調査から、集計対象企業分類を変更している。各社、2022年6月30日時点の最新の有価証券報告書を確認
※参考:昨年の記事「有価証券報告書から読み解く『役員報酬制度の最新トレンド』(1)~報酬ミックスと業績連動指標~」「有価証券報告書から読み解く『役員報酬制度の最新トレンド』(2)~株式報酬を中心とした中長期インセンティブ~
[] 基本報酬、STI、LTIの比率がそれぞれ記載されている企業の平均(結果的にプライム市場上位100社中64社、スタンダード市場上位100社中47社が対象)で、実際の支給金額ではなくポリシー上の構成比率。役位によって比率が異なる場合は社長の比率を使用している
[] 小数点第一位を四捨五入している
[] 調査対象企業のうち、業績連動指標の記載が明確に確認できた企業を母集団として集計。1社で複数指標を設定しているケースあり
[] プライム市場の調査対象企業のうち、LTIの記載が明確に確認できた企業を母集団として集計。1社で複数スキームを設定しているケースあり。なお、スタンダード市場においてはLTIを採用している企業数が少ないことから本稿での詳説は割愛。

執筆者

  • 澤村 啓介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    シニアマネージャー

    澤村 啓介
  • 諏訪内 翔子

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    マネージャー

    諏訪内 翔子
  • 友野 雅樹

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    コンサルタント

    友野 雅樹
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