2020年9月に経済産業省から発表された「人材版伊藤レポート」を発端に、日本企業の間で人的資本開示に注目が集まっています。また、2022年5月には人的資本経営実践のポイントや工夫を示した「人材版伊藤レポート2.0」がリリースされています。人的資本の開示の方向性については、2022年8月には内閣官房が「人的資本可視化指針」を策定、公表し2023年度から日本の上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務付けられるとされています。本コラムでは、これらを活用しながら人的資本開示を検討する際のヒントを紹介します。
人的資本開示事項の2類型
「人的資本可視化指針」では、人的資本の開示事項には2類型があるとされています。ひとつは投資家や従業員などのステークホルダーが同じ指標を用いて企業間比較するための「比較可能性の観点から開示が期待される事項」です。国内外の開示基準(ISO30414等)に基づき、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略との関係が深い項目を中心に、他社と比較可能な形で開示することが求められます。
もうひとつは「自社固有の経営戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標」に関する開示です。企業のビジネスモデルや経営戦略と開示事項の関連性、経営者が当該開示事項を重要だと考える理由、関連する指標・目標等の自社としての定義、時系列での進捗・達成度等を意識した開示が期待されています。ステークホルダーに対し、自社の取組・指標・目標そのものが独自性があるかという点、経営戦略との堅固な紐づきがある点がしっかりと訴求できるかが、重要となります。
独自性のある人的資本開示の検討方法
前述のとおり、与えられている開示基準に沿った「比較可能性の観点から開示が期待される事項」に比べ、「自社固有の経営戦略やビジネスモデルに沿った独自性のある取組・指標・目標」の開示は、各社で何を開示するか、どのように開示するか、を考える必要があります。
開示内容は一般的な内容であったとしても、その開示事項に対して自社固有の戦略やビジネスモデルを反映した独自性のある人的資本開示を行うためには、「人材版伊藤レポート2.0」にある「3つの視点と5つの共通要素(以降3P5F)」の活用が有効な手段のひとつと考えられます。当社では、この3P5Fをインプット(投資)→アウトプット(活動)→アウトカム(結果)のフローに当てはめて整理し、「独自性検討プラットフォーム(図1)」を作成しました。
※詳細は以下URLからご確認ください。
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/01/qmt_230112_01.pdf
この「独自性検討プラットフォーム」を活用することで、自社の取組と達成したい指標(Outcome)とのつながりを整理することができます。そうすることで、達成したい指標に対して取り組むべきことの抜け漏れの確認や今後のロードマップ作りに活かせます。加えて、競合他社との取組の違いの分析や、人的資本開示について社内で議論する際の目線合わせにも利用できます。そして、これら検討の結果が自社独自の人的資本開示項目の設定につながり、今後の取組のロードマップ作りにも活かせます。
また、人的資本経営は持続性が極めて重要です。ロードマップを策定し、一つ一つ取り組んでいっても、結果が出るまで数年かかることもあります。関係者が共通のプラットフォームを基に検討を進めること、自社における人的資本経営の目的を見失わずに活動を続けることが期待できます。
本コラムで述べた通り、「独自性」のある人的資本開示には、経営戦略やビジネスモデルと人材戦略が連動していることが前提となります。まずは経営戦略やビジネスモデルと人材戦略がどのように連動しているかを整理し、そのうえで、今回ご紹介した「独自性検討プラットフォーム」を活用し、人的資本開示の検討を進めてみることをおすすめします。
【関連サービス資料】
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【参考文献】
1:経済産業省(2020)「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書 ~人材版伊藤レポート~」
2:経済産業省(2022)「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
3:経済産業省(2022)「人的資本可視化指針 非財務情報可視化研究会」
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