「戦略」と「リスク管理」の統合によるガバナンス強化(2)
はじめに
「『戦略』と『リスク管理』の統合によるガバナンス強化(1)」は、企業のガバナンス高度化に向けて必要な3つのトランスフォーメーションのうち、「取り組み事例1『守り』(リスク管理)のトランスフォーメーション」を紹介しました。
本コラムでは、3つのトランスフォーメーションのうちの残り2つ、「取り組み事例2『攻め』(戦略)のトランスフォーメーション」および「取り組み事例3『攻め』と『守り』の統合に向けたデジタルプラットフォーム構築」を紹介します。
取り組み事例2「攻め」(戦略)のトランスフォーメーション
日本企業において多く聞かれる議論として、事業ごとの短期的な業績達成に主眼が置かれ、自社の目指す将来的な姿をよく描けておらず、その結果として中長期的な観点から経営戦略を十分に検討できていないというものがあります。そのような状態では、戦略的に経営資源の配分や投資が行われず、ともすれば将来性が低く保有する意義の少ない事業を延命させるために、資源が投下され続けてしまうリスクがあります。
こうした課題を払拭するためには、まず自社の事業ポートフォリオの基本方針を定めたうえで、定期的に事業評価を行うための管理基盤を整備し、マネジメントの間で自社の目指す姿に関する議論を深めることが肝要です。中長期的な目指す姿の実現に向けて、新規事業への投資を含め、企業価値向上に貢献するよう経営資源の配分のあり方を検討し、時には事業そのものの切り出しも検討の俎上(そじょう)に載せます。事業評価については、短期的な業績指標だけでなく、投下した資本から得られる収益性に関連する指標を用いることも重要です。それは、収益や利益を表す損益計算書(PL)のみに頼るのではなく、貸借対照表(BS)も踏まえて、ROIC(投下資本利益率)、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)といった資本効率性の観点も含めた事業評価へと変革していく必要があります。
自社の事業ポートフォリオ管理体制の構築や高度化に向けては、「事業再編実務指針[1]」や他社の取り組み・開示例等を参考に、自社が目指す事業ポートフォリオ管理のあり方を整理することが望まれます。
取り組み事例3「攻め」と「守り」の統合に向けたデジタルプラットフォーム構築
リスク管理や事業ポートフォリオの管理等における機会やリスクに関する情報が、機能や子会社ごとに分断されており、統合的に管理できていないケースがしばしば見られます。たとえば、社内で別々に設置された「投資モニタリング委員会」や「サステナビリティ委員会」、「リスク管理委員会」といった会議体において、それぞれが「新規事業に関する機会とリスク」、「中長期的な目指す姿に基づく、マテリアリティ(重要課題)に関わる機会とリスク」、「グループにおける重要リスクの影響度や発生可能性およびその対応策」といった、内容の似通った議論を別の情報源に基づいて行っている例があります。このような例においては、情報の整合性が十分に取れておらず、意思決定が非効率的になりがちです。
こうした全社横断的な複数の領域において、子会社も含めたグループ共通のデジタルプラットフォームを構築することにより、「攻め」と「守り」の双方の観点から統合的な情報連携を行えます。共通のデジタルプラットフォーム上で戦略やリスクに関する情報を収集し、統合データベースを構築することで、そのデータを活用し、グループで「攻め」と「守り」を一体的に議論できるようになり、ガバナンスのさらなる高度化につなげられるでしょう。
おわりに
日本企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の追求に当たっては、 「攻め」と「守り」のガバナンスの統合が喫緊の課題といえます。そのためには、本稿で紹介した「攻め」と「守り」の両面からの取り組みが重要であるとともに、欧米企業と比較しても遜色ない一段上のガバナンスを目指すために、デジタルプラットフォームを積極的に構築・活用していくことが重要です。
【関連資料】
「戦略」と「リスク管理」の統合およびデジタルプラットフォームの活用によるガバナンス強化
【関連レポート・コラム】
「戦略」と「リスク管理」の統合によるガバナンス強化(1)
攻めのガバナンス|事業ポートフォリオマネジメント態勢整備による「適切なリスクテイク」の要諦
【関連サービス】
GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)・防災(政策)
リスクマネジメント
GRCプラットフォーム
[1] 「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」経済産業省 2020年7月31日(最終確認日:2023年7月26日)
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。