DE&IとSDGs:未来志向の人権経営(1)

2023/08/31 櫻井 洋介、石橋 美咲、三谷 陶子
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今や多くの経営者に馴染み深い「持続可能な開発目標」(SDGs)。SDGsは、2030年までに達成すべき国際目標とされ、この目標を設定したアジェンダ(以下「2030アジェンダ」という)では、「零細企業から多国籍企業等、多岐にわたる民間セクターが目標の達成において役割を有する」と認められています。その2030アジェンダにも反映されるDE&Iと称される概念が、近年、投資家や経営者の注目を集めています。本コラムでは、前半と後半に分けて、DE&Iの意味やビジネスの文脈における論点、DE&Iを取り巻く状況、そしてDE&Iに関する人権経営について紹介します。

まず、この前半で、DE&Iの概要を振り返った上で、DE&Iと2030アジェンダとの関連やビジネスの文脈における論点について紹介します。

DE&Iの概要

DE&Iとは、ダイバーシティ(Diversity:多様性)、エクイティ(Equity:公平性)、そしてインクルージョン(Inclusion:包摂性)の略語で、多様な人々を公平な配慮の下に包摂することを意味します。DE&Iの前身とも言えるD&Iは、一足先に広く提唱された概念であり、耳にしたことがある方も多いかもしれません。多様な人々を包摂する意味のD&Iに「E:エクイティ」が加わった背景としては、社会や組織を包摂的にするには、個人差から生まれるニーズに公平に配慮する必要があることに意識が高まったことが挙げられます。エクイティと混同されやすいイクオリティ(Equality:平等)は、全員を等しく扱うことを意味するのに対し、エクイティ(Equity)は、個人差を考慮した扱いをすることによって、結果的に全員が等しい地点に立てるよう配慮することを意味します。D&Iについて既に行ってきた取り組みがある場合、それらの取り組みの中にエクイティの概念を盛り込むことで、組織の実質的な多様性や包摂性をより強化することができるでしょう。

【図表】エクイティ(Equity:公平性)とイクオリティ(Equality:平等)の比較
エクイティ(Equity:公平性)とイクオリティ(Equality:平等)の比較
(出所)日本経済団体連合会「経団連タイムス(No.3528) 『アンコンシャス・バイアスセミナー』を開催」(2022年1月13日)より[ 1

DE&Iとビジネスの文脈における論点

SDGsを設定した2030アジェンダにおいて、DE&Iの概念がどのように反映されているのか、そして、DE&Iがビジネスの文脈においてどのような論点となり得るのかについて、概要を説明します。

(1)DE&Iの「D」:ダイバーシティ

DE&Iのうち、ダイバーシティ(多様性)の「D」に関して、2030アジェンダは、人種、民族及び文化的多様性が尊重される世界を実現すべきビジョンとして位置づけ、年齢、性別、障がい、人種、宗教や経済的地位等に関わりなく、すべての人々を「エンパワー(empower)する」という目標を掲げています。「エンパワーする」とは、個人が自律した意思決定や行動をとるために必要な支援を行うことを意味する言葉で、マイノリティの権利運動や国際協力の文脈で使われるようになりました。

ビジネスの文脈においては、社内啓発等を通じて職員の多様性への理解を促進したり、育児や介護等の家族の状況や宗教的な慣習を考慮して勤務形態を柔軟にしたり、多様なリーダーシップを促進することなどが論点となり得ると考えます。

(2)DE&Iの「E」:エクイティ

DE&Iのうち、エクイティ(公平性)の「E」に関して、2030アジェンダは、脆弱な人々のニーズが満たされる公平な世界を実現すべきビジョンとして位置づけ、障がい者、高齢者、移民等の脆弱な立場に置かれた人々がエンパワーされるべき旨を述べています。また、すべての人々に対する良心的で公平なアクセスを重視した経済発展について言及されているほか、ジェンダー平等の文脈では、経済的資源等への公平なアクセスの重要性についても触れられています。

エクイティ(公平性)の「E」について、ビジネスの文脈においては、多様なステークホルダーに対して、いかに公平性を担保するか、たとえば力の弱い従業員でも力仕事ができるよう、パワーサポート設備を導入したり、障がいのある消費者を考慮し、製品・サービスに関する情報を点字や音声読上機能を活用して提供したりすることなどが論点となり得るでしょう。

(3)DE&Iの「I」:インクルージョン

DE&Iのうちインクルージョン(包摂性)の「I」に関して、2030アジェンダは、社会の持続的な開発において誰一人取り残さないことを宣誓しています。そして、すべての人に働きがいのある人間らしい仕事を促進し、包括的な経済成長を継続すること、年齢、性別、障がい、人種等に関わりなく、すべての人々を経済的に包摂していくことを目標に掲げています。

インクルージョン(包摂性)の「I」について、ビジネスの文脈においては、人々の多様性を認識し、公平な配慮の対象から誰一人として取り残さない制度や体制の整備が重要となるでしょう。たとえば、既存の社内研修や福利厚生プログラムなどにおいて、女性の視点は考慮してきたものの、LGBTQ+の視点については考慮してこなかった場合などは、制度を再検討する余地があります。

以上のとおり、DE&Iの3つの要素は、それぞれ独立した意味を持ちつつも、相互に補完し合っています。後半では、DE&Iを取り巻く状況やDE&Iに関する人権経営について紹介します。

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1 https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2022/0113_12.html(最終確認日:2023/08/22)

執筆者

  • 櫻井 洋介

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    シニアマネージャー

    櫻井 洋介
  • 石橋 美咲

    石橋 美咲
  • 三谷 陶子

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    アソシエイト

    三谷 陶子
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