新しい時代のガバナンス(4)日本企業における不祥事②
本連載では、「新しい時代のガバナンス」というタイトルを掲げ、グローバルベースで企業経営を取り巻くリスクが多様化・複雑化するなか、日本企業が競争力を高め成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題なのか? 何をすべきか? について、「ガバナンス」の視点から論じています。
第4回の本稿では、第3回に引き続き日本企業の実態と課題について、日本企業の不祥事の遠因から説明します。
不祥事の遠因
第3回では、日本企業で不祥事が頻発している現状と、その背景にはステークホルダーの期待に応えなければならないというプレッシャーに対し、企業内部の「経営の規律付け」と「経営の執行管理」が十分に機能していないことを取り上げました。
こういった状況が発生する背景には、リスクを適切にハンドリングできない未成熟なリスクカルチャーが存在することが知られています。リスクカルチャーは、一般に、内部・外部双方から適切なインプットや規律付けを受けることで徐々に成熟していきますが、日本企業は外部からの刺激を遮断する組織風土が多く、内向きのリスクカルチャーが形成されやすくなっています。具体的には、①組織の閉鎖性・ミドルマネジメントの機能不全、②内部キャリアを過度に重視する従業員の価値観、③指名委員会の形骸化の3つが「内向きのリスクカルチャー」によって形成されやすい、日本の組織風土の特徴と言えるでしょう【図表】。
組織の閉鎖性・ミドルマネジメントの機能不全
本社から距離が離れている部門や、所属人数が少ない部門では、組織防衛を理由とした逸脱行為に対する正当化(理由付け)が起こりがちです。孤立した組織では、その組織の中で固有の風土を醸成し、外部からのインプット(この場合は本社の組織改革)に対して過敏に反応し、過度に保守的な行動をとってしまう傾向があります。
また、不祥事を起こした企業を具体的に見ていくと、ライン部門が管理部門よりも発言権を有していることが往々にしてあります。そうした状況下では管理部門は軽視されがちとなり、実効性のある統制活動が行われず、それが不祥事発生の重要な要因となっていることも少なくありません。
特に組織風土が内向きである場合、内部昇格を繰り返していくことを前提としたキャリア観が従業員に形成されやすくなります。社長または取締役・執行役員への内部昇格をキャリアの到達点として考える価値観が支配的である環境では、昇進・昇格を成し遂げ激しい出世競争を勝ち抜いていくために業績目標達成が過剰に意識され、ともすると法令や社会規範から逸脱する行動が繰り返されてしまいます。
指名委員会の形骸化
閉鎖的な風土が支配する企業にありがちなもう一つの特徴として、指名委員会の形骸化が挙げられます。指名委員会は、指名委員会等設置会社でない企業では、任意の諮問委員会として設置されていることが多く、一般的に社外取締役が過半数を占めています。指名委員会は、本来は社長などの経営陣の選解任案を議論する場であるものの、社外取締役への影響力も含めて社長が実質的に大きな権限を留保し、事実上、社長の独断で人事を決定しているような場合には、経営の規律付けが正しく働いていないと言わざるを得ません。このような組織では、ガバナンス自体が形骸化し、その効果も限定的になってしまいます。
ここまで、不祥事発生の遠因として、未成熟なリスクカルチャーが存在すること、それは日本企業の閉鎖的な組織風土とつながりがあることを論じてきました。これは必ずしも全ての企業に該当するものではありませんが、程度の差こそあれ、閉鎖的な組織風土につながるファクターを有する企業が多いのが実態ではないでしょうか。企業は上記に挙げた3つの特徴を考慮し、望ましい方向でリスクカルチャーを醸成することが必要となってくると考えられます。
以上、第3回から第4回にかけて日本企業の実態と課題を不祥事の観点から整理しました。ガバナンスの課題は、外部環境の変化にあわせて刻々と変化するものです。今日の日本企業は新しい時代に求められるリスクを見極め、企業価値につながる行動をするためのガバナンス変革が迫られている状況にあります。そのような状況下での不祥事の発生は企業価値を大きく毀損させます。時間を要するかもしれませんが、「経営の規律付け」と「経営の執行管理」の観点から包括的にガバナンス課題に取り組めば、それは結果として不祥事を未然に防止し、さらには企業価値の向上にもつながっていくと考えられます。
最終回である第5回は、本連載の総括として日本企業のグローバル競争力強化へ向けて、新しい時代に求められる「ガバナンス」の考え方について論じます。
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