中堅・中小企業におけるデジタル技術を活用した新たなビジネス機会の創出のポイント

2023/10/04 床井 直人、秦 隆裕、大石 皓斗
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DX

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が広まる中、ビジネスにおいてデジタル技術の活用は不可欠となっています。その目的として挙げられることは多岐にわたりますが、事業のコスト削減や効率化などのいわゆる「守り」の側面はもちろん、既存事業の収益力向上や新規事業・サービスの開発などの事業拡大に資する「攻め」の要素も見逃せません。

一方、単純自動化などの「デジタイゼーション」は一定程度進んでいるのに対し、創造・革新側面からの「デジタルトランスフォーメーション」は、多くの中堅・中小企業ではまだ途上にあります。DX推進の取組状況について尋ねた調査によると、「お客様への新たな価値の創造(新たな顧客サービス、事業分野等)」に取り組んでいる割合は4割に満たず、DX推進を通じた事業拡大にはまだまだ検討の余地が大きいことが見て取れます【図表1】。

【図表1】DX推進の取組状況
DX推進の取組状況
(出所)「企業IT動向調査報告書2022」一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)

加えて、企業規模別にDX推進状況を見ると、中堅・中小企業におけるデジタル技術の活用は、大企業に対して十分進んでいないことも伺えます。

【図表2】従業員数別 DX推進状況
従業員数別 DX推進状況
(設問:貴社はDXを推進できていると思いますか)
(出所)「企業IT動向調査報告書2022」一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)

しかし、事業拡大という観点でデジタル技術を活用することは、中堅・中小企業にとって決して縁遠いものではなく、実際に既存ビジネス領域の強化や、ビジネスモデル変革を果たしている企業も数多く存在しています。

そこで本レポートでは、中堅・中小企業におけるデジタル技術活用による事業拡大について事例を交えながら紹介します。

技術トレンド別のビジネス機会創出事例

近年注目が高まっているデジタル技術のうち、本レポートでは代表的なものとして「IoT」「スマートグラス」「3Dプリンタ」「AI」の4つの事例を取り上げます。これらの技術が持つ特性のうち、事業拡大に活用可能と考えられる点を【図表3】にて例示します。

【図表3】事業拡大に活用可能と考えられるデジタル技術の特性の例
事業拡大に活用可能と考えられるデジタル技術の特性の例
(出所)当社作成

こうした各デジタル技術の特性に、自社が持つ製品やサービス・ノウハウなどを組み合わせることが、事業拡大への可能性につながります。本レポートは事業拡大につながった、以下5つの事例[ 1.2.3.4.5]を取り上げます。

【図表4】デジタル技術を用いた事業拡大の事例
デジタル技術を用いた事業拡大の事例
(出所)5つの事例[ 1.2.3.4.5.6 ]を基に当社作成

これらの事例をひもとき、デジタル技術による事業拡大を検討する際の方向性を整理していきます。

保有アセットの活用範囲を拡げる(事例1)

事例1は3Dプリンタの特性を活かし、ロボットハンド分野への参入ボトルネックとなっていた「試作にかかる膨大な予算」という要素を乗り越えた事例と言えます。デジタル技術により新たな分野進出のボトルネックを解消し、保有する技術やノウハウという保有アセットの活用範囲を拡げる可能性があるとわかります。

バリューチェーンの下流へ進出する(事例2)

製品にIoTの仕組を組み込むことで顧客の製品使用状況をリアルタイムなデータとして取得できます。事例2はその仕組みを活かした事例です。つまり、デジタル技術を用いることで、モノ作り・モノ売りを手掛けてきた企業が、バリューチェーン下流の保守やサービスなどの領域に進出できる可能性があります。

自社の課題を業界全体の課題に昇華して解決策を提供する(事例3、4)

事例3は、スマートグラスの特性を活かした建設現場自体が抱える課題に対するソリューション、事例4はAIをビッグデータ解析に用いることで実現した企業間をまたいだ共同輸送のマッチングプラットフォームを、それぞれ事業化した例です。自社の課題解決という目線だけでは事業の改善や効率化に留まってしまいがちですが、それを業界の課題と捉え、デジタル技術を活用して企業横断的に解決するという発想が、事業拡大につながっています。

これまでの商品・サービスに新たな価値を付加して新たな顧客に販売する(事例5)

事例5は、IoTが「モノ」に対して与えるインタラクティブ性を捉えて、止水板という製品にデジタルサイネージという全く異なる価値を与えています。デジタル技術によって自社のこれまでの製品・サービスにこれまでと全く異なる価値を付加したことで、事業拡大につながった事例です。

デジタル技術活用による事業拡大検討の方向性

ここまで4つの技術トレンドに関連した5事例に基づき、デジタル技術による事業拡大を検討する際の方向性を紹介しました。紹介した事例は製造業・建設業・物流業が中心となりましたが、これらの業界に共通していることは、業界全体として大きな構造的課題を抱えているという点が挙げられます【図表5】。

【図表5】業種ごとの構造的な課題
業種ごとの構造的な課題
(出所)当社作成

しかし、こうした課題が大きい業界こそデジタル技術を活用できるポテンシャルが大きく、事業拡大の機会も多く潜んでいるとも考えられます。自社の製品やサービスの持つ強みにデジタル技術が持つ特性を組み合わせることによって生み出せる価値に着目することで、新たなビジネス機会創出の切り口が見いだせるのではないでしょうか。

【関連サービス】
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DX(デジタルによるビジネスモデル変革・事業改革)

【関連レポート・コラム】
中小企業経営におけるデジタル活用とビジネスモデル変革

1 ] 「あらゆるものを把持するロボットハンドの開発に3Dプリンターが活躍」JBサービス㈱(最終確認日:2023/8/10)
2 ]「IoT時代にサービスで新たな付加価値創出に取り組む中小製造業」(2018年)日本政策金融公庫(最終確認日:2023/8/10)
3 ]「飛島建設とロゼッタが 「e-Sense」の展開拡大」(2020年)飛鳥建設㈱(最終確認日:2023/8/10)
4 ]「共同輸送マッチングサービス“TranOpt(トランオプト)”をリリース」(2021年)日本パレットレンタル㈱(最終確認日:2023/8/10)
5 ]「『浸水防止シート付デジタルサイネージ』を開発。クリエイトエス・ディー店舗にてデジタルサイネージの広告媒体を提供開始。」(2021年)PRTIMES/㈱ダイクレ(最終確認日:2023/8/10)
6 ]「広島発 日本全国、浸水被害ゼロを目指したオープンイノベーション|建材メーカーの「防水ボックス」を広告媒体に。」(2020年)PORT(最終確認日:2023/09/04)

執筆者

  • 床井 直人

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    マネージャー

    床井 直人
  • 秦 隆裕

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    コンサルタント

    秦 隆裕
  • 大石 皓斗

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    アソシエイト

    大石 皓斗
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