新しい時代のガバナンス(5)日本企業に求められる「ガバナンス」

2023/10/05 阿部 功治、中山 尚美、船木 陽介
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本連載では、「新しい時代のガバナンス」というタイトルを掲げ、グローバルベースで企業経営を取り巻くリスクが多様化・複雑化するなか、日本企業が競争力を高め成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題なのか? 何をすべきか? について、「ガバナンス」の視点から論じています。

第5回は、本連載の総括として、新しい時代に求められる「ガバナンス」の全体像について述べます。

日本企業におけるガバナンスの状況

本連載では、「新しい時代」の概観と日本企業のグローバル競争力の現状、そうした状況における「ガバナンス」の重要性と日本企業における「ガバナンス」の現状と課題について論じてきました。本稿では、新しい時代に求められる「ガバナンス」とはどういうものなのか、本連載のまとめも兼ねて解説します。

日本企業のガバナンスは、特に英米のそれとは大きく異なる独自の法制度、メインバンクを始めとした限られたステークホルダーによる株式の持ち合いといった環境が戦後長い間続いたこともあり、ステークホルダーとの対話や透明性の確保、経営の実行責任/結果責任の充足といった「経営の規律付け」に対する意識が、欧米のグローバル企業と比較すると相対的に低い場合が少なくありません。これらの特徴は、ガバナンスを重視する欧米投資家からの目線が厳しさを増す中で、今ではグローバル市場での競争力を低下させる原因の一つにもなっています。

こうした状況にも鑑み、日本経済が長期的に低迷する状況を打破すべく、英米の後も追いつつわが国においてもガバナンス改革の議論が本格化しています。具体的には、会社法の制定・改正やコーポレートガバナンス・コードの制定・改訂が行われ、並行して、メインバンク等による株式持ち合いの解消、親子上場の是非に関する議論も進展しています。日本企業においても、欧米の有力投資家らとも渡り合いながらグローバル市場でさらなる勝負を仕掛けられるだけの態勢や環境が整いつつあると言えます。

過去十数年にわたる一連の改革の結果、社外取締役の登用、取締役会の多様性の進展、ステークホルダーとの対話や情報開示の強化、コンプライアンス意識の高まりと管理の強化、企業におけるリスク管理態勢の導入・強化等、わが国におけるガバナンスの枠組みや実務は大きく変化し、進化しました。その結果、従前とは比較にならないレベルで企業経営の透明性は増し、明確な法令違反はもちろんのこと、各企業の内輪の論理に基づく不適切な経営が行われる余地は、少なくとも表面的にはなくなりつつあるように見えます。

しかしながら、企業をはじめとするわが国におけるさまざまな組織では不祥事が後を絶ちません。伝統的な大企業による大規模かつ長期にわたる会計不正、日本を代表するメーカーにおける品質問題等、組織経営の規律付けが欠如していたとしか思えないような問題が発生しています。また、経営の執行側、すなわち、日々の組織運営や業務執行に責任を持つ側の意識や仕組みも十全ではありません。特にグループ・グローバルベースでの管理態勢構築・運用に関しては、多くの日本企業は同程度の規模の欧米企業と比べて、少なくとも10年以上遅れてしまっているのではないかとさえ思われます。

新しい時代に求められる「ガバナンス」

「ガバナンス」は、その性質上、経営の守りの側面としての色合いがどうしても強くなるがゆえに、多くの場合それらが直接的に収益に結びついていないように見られがちです。それゆえ、そもそもガバナンスの欠陥が競争力の低下につながっていることすら気付かないままに、わが国の企業(あるいは組織一般)はグローバル市場での競争力を失っているのかもしれません。グローバル市場から見た日本経済は長期低迷からいまだ脱することができず、過去20~30年の間に相応の成長を成し遂げた他の先進国や主要な新興国との間の差は大きく広がってしまっています。日本企業がこうした状況を打破し、再び成長のモメンタムを取り戻すためには、新たなビジネスや市場の創造だけではなく、「ガバナンス」の強化にも改めて目を向ける必要があるのではないでしょうか。

この際に重要となるのは、いわゆるコーポレートガバナンス(狭義のガバナンス)にとどまらず、経営の執行部分をも包含した概念としての「ガバナンス」の強化です。具体的には、取締役会や各種委員会の有効性の担保、役員指名・報酬に係る制度の整備等を含む『経営の規律付け』と、戦略の立案・実行と両輪を成す経営管理態勢の整備、事業ポートフォリオ管理の強化、グループ・グローバルベースでのリスク管理態勢の確立等を含む『経営の執行管理』とを両面から強化していく必要があります。これらを通じてグローバル市場で堂々と戦える態勢を構築していくことは、個別の日本企業に限らず、“日本株式会社”全体の喫緊の課題であると考えられます。

【図表】 新しい時代に求められる「ガバナンス」の全体像
新しい時代に求められる「ガバナンス」の全体像
(出所)当社作成

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新しい時代のガバナンス(4)日本企業における不祥事②

執筆者

  • 阿部 功治

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    部長 プリンシパル

    阿部 功治
  • 中山 尚美

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    中山 尚美
  • 船木 陽介

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット コーポレートアドバイザリー部

    シニアマネージャー

    船木 陽介
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