地政学リスクの高まりをきっかけに注目を集める経済安全保障・海外危機管理への対応(2)
はじめに
「地政学リスクの高まりをきっかけに注目を集める経済安全保障・海外危機管理への対応(1)」では、「①事業への影響」に関する取り組み事例として、「1.安全保障輸出管理態勢の再点検および構築」、「2.想定外リスクの識別およびシナリオ分析」について紹介しました。
2回目となる今回は、「①事業への影響」に関する取り組み事例として、「3.リソースベースのBCP策定」を、「②従業員への影響」に関する取り組み事例として、「4.本社における海外危機管理態勢の整備」を紹介していきます。
取り組み事例3. リソースベースのBCP策定
前回のコラムで紹介したように、「想定外リスク」を事前に識別して対応策を練っておくことは重要である一方で、これらを“網羅的に”想定しておくことには一定の限界があることも真実です。そのため、こうしたリスクが顕在化した場合でも事業を継続するための対応を、あらかじめ検討しておくことも同様に重要です。そこで、「リソースベース」でBCPを策定するという考え方が有効となります。
従来の「シナリオベース」によるBCPは、あらかじめ危機となり得るシナリオごとにBCPを策定するものである一方、「リソースベース」によるBCPは、自社にとっての「重要業務」を特定し、それを支える従業員・施設・システムといった「経営資源(リソース)」を、早期に確保・復旧することを目的として策定するものです。
自社にとっての「重要業務」を特定する際は、自社の利益だけではなく、顧客や社会の目線からも検討することが必須です。そして、自社の「重要業務」ごとに、これを支える自社(または第三者)の「経営資源」を特定します。そしてこれらの「経営資源」への影響を分析した上で、緊急時の態勢、アクションリストなどをBCPとして取りまとめます。
取り組み事例4. 本社における海外危機管理態勢の整備
近年、自然災害や労働災害・事故、犯罪・誘拐・拉致、戦争・紛争・テロ行為、感染症のパンデミック(世界的大流行)など、さまざまな「危機」が発生しており、出張者や駐在員が巻き込まれる事件も起こっていますが、企業として十分な取り組みができていないケースが多く見られます。
そこで、グローバル本社としては、海外危機管理に関する現状を把握した上で、基本方針、平常時/緊急時の管理態勢、報告ルート、教育・研修の実施状況などの要検討事項について協議し、「目指す姿」を確定した上で、規程・マニュアルを整備することが重要です。
なお、取り組みに当たり、発生し得る危機事象を想定し出すと無数に挙がる可能性もあるため、まずは、会社として特に注視すべき危機事象を数件程度想定しておくことが考えられます。
また、海外危機管理に関する規程類の体系を、あらかじめ整理・検討しておくことが肝要です。そのため、自社の現状の規程体系や規程類の整備状況をまず把握した上で、自社にとって最適な海外危機管理規程体系について、事前に検討しておきます。
それを踏まえて、個別論点ごとに検討した内容を規程・マニュアルに落とし込みます。会社として実施すべき事項と、従業員において遵守すべき事項とを明確に定義した上で、規程・マニュアルとして整備します。
おわりに
ここまで見てきたとおり、昨今大きく変化する世界情勢と、それに応じて生じる地政学リスクに対応するには、「①事業への影響」および「②役職員への影響」の両面から自社の現状を適宜点検するとともに、必要な対応をタイムリーに行っていくことで、さまざまなステークホルダーに対する責任を果たすことが、企業の事業継続にとって不可欠といえるでしょう。
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