昨今、フェムテックサービス市場に新しく参入する企業が増えています。「フェムテック(Femtech)」とは、「女性」を意味する「Female」と「技術」を意味する「Technology」を組み合わせた造語で、月経や妊娠、更年期などの健康課題をテクノロジーで解決するためのサービスやプロダクトを指します。近年のフェムテックへの注目は、女性の活躍推進が進む中で、女性特有の健康課題に関する経済損失が年間約5,000億円にも上るという国の試算に基づく市場拡大の可能性だけでなく、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や、目標3「すべての人に健康と福祉を」の実現に資するポテンシャルを、フェムテックが持っていることによるものも含まれます。
今回のコラムでは、フェムテックサービスに参入する際のポイントを、事例とともにご紹介します。
既存事業との関連性を踏まえたフェムテックサービスの開発事例
大手衣料品メーカーGU は、2021年に女性の健康リテラシーの向上と関連商品の開発・販売を通じて、女性の健康をサポートするプロジェクト「GU BODY LAB」を開始しました。同社は、顧客である女性のニーズや悩みに応え、生理中の不快感を低減させる吸水ガード型サニタリーショーツなどを企画・販売しています。生理中でも女性が下着選びを楽しめるようなデザインを採用したり、機能性を追求しつつも、他社製品と比べて圧倒的に低い価格に設定したりすることで、若い女性の支持を集めています。
また、商品の売り上げだけでなく、女性の健康に関する知識の普及や啓発に向けた取り組みをしている点も特徴です。例えば、基礎体温を計測する婦人用体温計などの製造・販売を行うオムロン ヘルスケアや、月経周期などの記録の他、女性の健康に関する情報を提供するサービス「ルナルナ」を展開するエムティーアイと提携し、情報発信を手掛けています。顧客に限らず、社内外でプロジェクトの意義を理解してもらうことにより、製造現場などの協力を得て低価格を実現しているそうです。
この他、あすか製薬は、女性の健康リテラシーを向上させるため、2020年から「Mint+」というオンラインサービスを提供しています。女性がより健康で豊かな人生を送れるように、女性の健康に関する基礎知識をウェブサイトやイベントなどで発信している他、特に知識が乏しい10代の若い女性を対象としたコンテンツ「Mint+ teens」の提供や、他社とのコラボレーション(「食」に関するABCクッキングスタジオとのコラボレーションなど)を行っている点が特徴です。あすか製薬のこうした取り組みは、一人で抱えてしまいがちな女性の身体に関する悩みについて、正しい知識を伝えることで、婦人科などでの早期受診・治療を促すことにつながります。その流れの中で、最終的には自社が強みを持つ産婦人科領域の治療薬(子宮内膜症や月経困難症など)の売り上げ拡大に貢献させる狙いもあると考えられます。
このように、フェムテックに関連する領域に既存事業を持つ企業が、社会貢献の意義に加え、間接的な自社の既存事業への好循環を狙って、新たにフェムテックサービスを手掛ける点が特徴といえるでしょう。
社内の女性の声を受けたフェムテックサービスの開発事例
一方、本業とは関連しない形でのフェムテック市場への参入事例として、2021年に大手総合商社丸紅が始めた法人向けフェムテックサービスの開発・提供が挙げられます。本サービスは、丸紅の従業員が中心となって進めたものですが、総合商社という「男性社会」の中で、女性従業員が自らの抱える健康不安について声を上げづらいという実態を踏まえ、社内へのサービス実証導入から始まった点が特徴です。導入後、症状の改善やサービスへの満足感が見られた他、エンゲージメントの向上といった企業全体にとってもプラスの影響が見られました。結果として、フェムテックサービスの開発に取り組む意義や、女性の健康課題の解決が持つ経営上のポテンシャルが認められ、事業立案に携わってから1年弱で3社の業務提携に至るという、異例のスピードで事業化につながりました。
なお、当サービス開発に際して、丸紅は前出のエムティーアイ、「CARADA オンライン診療」などのオンラインヘルスケアコンテンツを配信するカラダメディカと業務提携を行いましたが、社外の専門家の知見を活用したことでより充実したサービス提供につながり、顧客満足度を高めた点も注目すべきポイントといえるでしょう。
フェムテックサービス市場における事業開発のポイント
フェムテックサービスは大きな注目を集めている一方、市場としてはまだ黎明期にあるため、導入後の収益性を懸念して開発を躊躇する企業もあるでしょう。そのような場合には、既存事業とのシナジーを生み出せるようなサービスの開発を行うとよいかもしれません。フェムテックサービス単体での収益化は難しくとも、既存事業との組み合わせに本業への貢献余地があるのであれば、フェムテックサービスに取り組む意義は大きいといえるでしょう。
一方で、既存事業との関連がない企業においても、社内に目を向けると、女性特有の健康課題など、悩みを打ち明けられずにいる従業員がいるかもしれません。フェムテックサービスへの取り組みを、新規参入による収益化の機会としてだけではなく、従業員満足度やエンゲージメント向上を目指す取り組みとして捉えることで、参入ハードルを引き下げることも考えられるのではないでしょうか。
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