役員報酬の最新トレンド(2023年)(2)~業績連動指標とLTIスキーム~

2023/12/22 澤村 啓介、花井 宏介、友野 雅樹
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上場企業における直近の有価証券報告書の記載事項に関する集計結果から、役員報酬制度のトレンドを概説する本コラム。第2回となる今回は、「業績連動指標とLTIスキーム」について解説します。

集計結果

(集計対象企業については役員報酬の最新トレンド(2023年)(1)~報酬ミックス~をご確認ください)

1.業績連動指標

プライム市場上位100社において、STI(短期インセンティブ)およびLTI(中長期インセンティブ)に連動させる財務指標として最も多く採用されている指標は営業利益であり、STIで67件、LTIで36件となっています。また、2022年度調査比で見ると、非財務指標の採用数がプライム市場上位100社で大幅に増加し、STIが同+34件の66件、LTIが同+32件の80件となっており、業績連動指標として非財務指標を積極的に取り入れている様子がうかがえます(プライム市場上位100社で採用されている非財務指標の詳細については、第3回のレポートで解説します)。
一方、スタンダード市場上位100社で最も多く採用されている財務指標は、STIに連動させる指標では経常利益(26件)、LTIに連動させる指標では営業利益(8件)でした。
また、非財務指標の採用はSTIで1件、LTIで2件にとどまっており、プライム市場とは異なり、非財務指標を積極的に取り入れている企業は少数です。

【図表1】STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標(財務指標上位5指標と非財務指標合計、1社で複数指標を設定しているケースあり)[ 1
STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標
(出所)当社作成

2.業績連動指標の具体的な目標値の開示状況

業績連動報酬に関わる指標の目標および実績については有価証券報告書に記載するよう、内閣府令において定められています。業績連動指標の具体的な目標値の開示状況は、プライム市場上位100社で49%、スタンダード市場上位100社で27%となっており、プライム市場上位100社であっても、半数以上の企業では指標の開示にとどまっているのが現状です。昨今、役員報酬に関する透明性の高い開示が求められていることを踏まえると、指標の開示だけでなく、具体的な目標値および実績についても開示を行うことが望ましいといえるでしょう。

【図表2】業績連動指標の具体的な目標値の開示状況[ 2
業績連動指標の具体的な目標値の開示状況
(出所)当社作成

3.LTIのスキーム

プライム市場上位100社で採用されているLTIのスキームとして最も多いものは、RS(リストリクテッド・ストック、譲渡制限付株式報酬)/RSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)で、51社が採用しています。次いで株式交付信託が31社、PS(パフォーマンス・シェア)/PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)が28社となっています。
なお、株式交付信託は、信託を通じてRU/RSUやPS/PSUの仕組みを実現するものを指します。会社側にとっては管理負荷を軽減できる代わりに、信託報酬などの費用を負担することとなるため、仕組みが複雑になりやすいPS/PSU型とする場合に、株式交付信託を採用しているケースが多いものと推察されます。
昨年の集計結果と比較すると、株式交付信託が前回比+8社、PS/PSUは同+5社と、業績指標に連動させるLTIスキームを採用している企業が増加傾向にあります。
一方、スタンダード市場上位100社で採用されているLTIのスキームとして最も多いものは、RS/RSUが26社、次いでSO(ストックオプション)が15社、株式交付信託が13社となっており、約半数の企業ではLTIを導入していない状況です。

【図表3】採用しているLTIのスキーム[ 3
採用しているLTIのスキーム
(出所)当社作成

まとめ

コーポレートガバナンス・コード[ 4 ]では、経営陣の報酬に「中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべき」としています。
プライム市場では、業績指標に連動させるLTIスキームを採用する企業が増加しており、コーポレートガバナンス・コードが求めている「インセンティブ付け」が着実に進んでいるといえるでしょう。
一方、スタンダード市場では、LTIを導入している企業が少なく、また、導入している企業であっても業績指標に連動しないLTIスキームを採用している企業が大半となっています。経営陣の適切なリスクテイクを促す仕組みを役員報酬制度に取り入れることについて、検討を行う必要があるといえるでしょう。

次回は、「役員報酬に反映する非財務指標の動向」についてご紹介します。

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役員指名・報酬、コーポレートガバナンス


1 ] 調査対象企業のうち、業績連動指標の記載が明確に確認できた企業を集計
2 ] 調査対象企業のうち、有価証券報告書上に業績連動指標の具体的な目標値の記載が明確に確認できた企業を集計。母集団は業績連動指標の記載が明確に確認できた企業とした
3 ] 調査対象企業のうち、LTIの記載が明確に確認できた企業を母集団として集計。1社で複数スキームを設定しているケースあり
4 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

執筆者

  • 澤村 啓介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    シニアマネージャー

    澤村 啓介
  • 花井 宏介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第2部

    マネージャー

    花井 宏介
  • 友野 雅樹

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    コンサルタント

    友野 雅樹
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