「ディープテック・スタートアップとのオープンイノベーション」のススメ
新規事業開発の手法として、「スタートアップとのオープンイノベーション」が一般化されつつあります。一方で、「ディープテック・スタートアップ」を取り巻くスタートアップ・エコシステムは発展途上にあり、「ディープテック・スタートアップとのオープンイノベーション」に取り組む事業会社はまだ多くありません。
ディープテック・スタートアップは、既存の産業や社会が抱える根本的な課題解決に対して非常に大きな影響(インパクト)を与えるプレーヤーだと位置付けられていますが、成長フェーズに応じた課題を解決するために多くのアセットやリソースを必要とします。そのため、事業会社が保有するアセットやリソースの支援(提供)によって、オープンイノベーションによる新規事業開発の共創機会が生じます。
そこで、本コラムでは、「ディープテック・スタートアップとのオープンイノベーション」に取り組むことによって、社会課題解決型の新規事業開発を進める事業会社が今後増えることを期待し、ディープテック・スタートアップの成長フェーズごとに、オープンイノベーションに取り組む事業会社が留意すべき事項を概説します。
ディープテック・スタートアップの可能性
「ディープテック・スタートアップ支援事業の基本方針(令和5年3月、経済産業省)」[ 1 ]では、ディープテック・スタートアップを「国際社会が多様かつ困難な社会的課題に直面する中、ディープテック・スタートアップの有する革新的な技術はこうした課題の解決につながり得るものであるとともに、革新的な技術に裏打ちされた新たな企業・産業の創出により我が国経済の成長を実現するポテンシャルを秘めている」と説明しています。ディープテック・スタートアップは、既存の産業や社会が抱える根本的な課題解決に対して非常に大きな影響(インパクト)を与えるプレーヤーだと位置付けられています。
ディープテック・スタートアップの具体例として、以下の代表的なスタートアップ(図表1)が挙げられます。いずれも、既存の産業や社会が抱える根本的な課題解決に寄与する事業分野において、評価額が1000億円(10億ドル)を超える(または、1000億円に近い)企業です。
ディープテック・スタートアップが抱える成長フェーズに応じた課題
ディープテック・スタートアップは、先端的な技術シーズを保有し常識にとらわれないチャレンジを志向する一方、成長フェーズに応じて事業/技術の両面でさまざまな課題(図表2)を抱えています。
「シード/アーリー期」は、事業面で「市場/顧客の見極め」が課題になります。例えば、技術シーズを活用した事業の市場性(規模・成長性)検証や、顧客像の明確化とその受容性(ニーズ)検証などにより、市場/顧客を見極める必要があります。また、技術面で「調査研究方針の明確化」が課題になります。例えば、コア技術の定義や、定義したコア技術のF/S(実行可能性調査)・PoC(概念実証)の実施などにより、調査研究方針を明確にする必要があります。
「ミドル期」は、事業面で「初期市場の獲得」が課題になります。例えば、具体的なユースケースの検証や、ビジネスモデル(サービス提供内容/サービス提供方法)の構築などにより、初期市場の獲得を目指す必要があります。また、技術面で「実用化開発への適応」が課題になります。例えば、具体的な製品仕様への落とし込みや、技術成立性(実運用に近い条件での実証)の確認などにより、実用化開発への適用を目指す必要があります。
「レイター期」は、事業面で「主要市場の獲得」が課題になります。例えば、顧客規模の拡大(アーリー/レイトマジョリティ層[ 3 ]の獲得)や、ビジネスモデル(サービス提供内容/サービス提供方法)の高度化(プラスαの付加価値提供、DX化)などにより、主要市場の獲得を目指す必要があります。また、技術面で「量産化/実運用への対応」が課題になります。例えば、サプライチェーンを含めた量産体制の構築や、実運用での実証(実際の運用条件において技術仕様で規定する機能・性能検証)などにより、量産化/実運用への対応が必要となります。
「ディープテック・スタートアップとのオープンイノベーション」に取り組む企業が留意すべき事項
ディープテック・スタートアップは、前述した事業/技術課題を解決しながら、いわゆる「魔の川・死の谷・ダーウィンの海」と呼ばれる技術の社会実装の過程における三つの難所[ 4 ]を越えるために、各フェーズの状況に応じて多くのアセットやリソースを必要とします。そのため、事業会社が保有するアセットやリソースの支援(提供)によって、オープンイノベーションによる新規事業開発の共創機会が生じます。
上記のオープンイノベーションに取り組む際には、以下の設計(図表3)に留意が必要です。
※1 SU:スタートアップの略
※2 DD:デューデリジェンスの略
「シード/アーリー期」は、「スコープ設計」が重要です。共創相手のディープテック・スタートアップを選定する際に、技術のポテンシャルや社会的インパクトを重視すると同時に、ディープテック・スタートアップのビジョンやミッションが事業会社のビジョンやミッションと整合性があるのか、事業シナジーが発揮できる可能性があるのかを基準にして選定します。
「ミドル期」を対象とする場合には、「プロセス設計」が重要です。初期市場の獲得時は、ディープテック・スタートアップと具体的な協業内容(チームなどの推進主体、役割分担、契約条件など)を明確に整理して進めます。
「レイター期」を対象とする場合には、「社内ルール設計」が重要です。ディープテック・スタートアップのExitを見据えた、M&Aの意思決定ルールや技術移転に関するルール(意思決定方法、評価方法など)を整備します。
以上の点に留意することで、「ディープテックスタートアップとのオープンイノベーション」の取り組みがより円滑に進み、社会課題解決型の新規事業開発の成功確度がより高まるでしょう。
[ 1 ] 経済産業省「ディープテック・スタートアップ支援事業の基本方針」(令和5年3月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/pdf/028_s01_00.pdf
[ 2 ]経済産業省「ディープテックスタートアップの評価・連携の手引き(令和5年6月)」
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230602006/20230602006-1.pdf
[ 3 ]三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 用語集「イノベーター理論 アーリー/レイトマジョリティ」
https://www.murc.jp/library/terms/aa/innovatortheory/
[ 4 ]三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 用語集「魔の川・死の谷・ダーウィンの海」
https://www.murc.jp/library/terms/ma/devil-river-valley-of-death-darwinian-sea/
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