会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果(1)実態に合わせたセクシャルハラスメント防止策を

2024/07/11 石黒 太郎
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人的資本経営の推進において、昨今、ウェルビーイングやワーク・エンゲイジメントといった指標に注目が集まっています。これらの指標と他のさまざまな要素との関係を探るため、当社では日本国内の企業に在籍する会社員約2万人を対象にアンケート調査(以降、会社員2万人調査)を実施しました[ 1 ]。本連載「会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果」では、会社員2万人調査を統計的見地から詳細に分析の上、日本企業の人材マネジメントにとって示唆となり得る内容をテーマごとにご紹介します。
第1回となる本稿では、セクシャルハラスメント(以降、セクハラ)を取り上げます。職場におけるセクハラの現状や、セクハラが従業員の就労心理にどのような影響を与えるのかなどを分析結果から明らかにした上で、職場におけるセクハラ防止策を実践に移す前提として考慮しておきたいことをお伝えします。

直近1年間でのセクハラに関する属性データ

会社員2万人調査では、直近1年間での職場におけるセクハラに関して「上司・同僚からセクハラを受けた」と「同僚がセクハラを受けている状況を見た」を質問し、回答者は五つの選択肢(5:あてはまる、4:ややあてはまる、3:どちらともいえない、2:ややあてはまらない、1:あてはまらない)から一つを選びました。その結果、5:あてはまる/4:ややあてはまると回答したのは、「上司・同僚からセクハラを受けた」が6.9%、「同僚がセクハラを受けている状況を見た」は1割弱の9.3%となり(図表1参照)、一部の職場では直近でもセクハラが生じてしまっている状況が見受けられます。

【図表1】直近1年間の職場におけるセクシャルハラスメントに関する回答割合
直近1年間の職場におけるセクシャルハラスメントに関する回答割合
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

また、「上司・同僚からセクハラを受けた」について、5:あてはまる/4:ややあてはまると回答した属性は、女性の割合が有意に高く年代では有意な差が見られませんでした 2 ]。これらの結果から、例えば「セクハラの被害者は若手が多い」といったイメージは単なるバイアスである可能性が示唆されます。
一方、役職別の分析では、セクハラを受けたおよび見たと回答する割合は女性管理職が有意に高くなりました。特に上級管理職(部下に管理職が含まれる役職)の女性による回答の平均は、他の属性(男性非管理職・女性非管理職・男性管理職・女性管理職・男性上級管理職)より突出して高くなりました。ただし会社員2万人調査では、どのような時にセクハラを受けた/見たという点まで尋ねていないため、実態把握にはより詳しい調査が必要です。
次に、職種(全33種)による差があるかを確認したところ、セクハラを受けたおよび見たと回答する割合が有意に高い職種は「財務」「生産技術」「物流・生産管理」の三つでした。これらの職種で回答平均が高い理由を明らかにするには追加調査・検証が必要ですが、少なくとも職種によってばらつきがあることが分かりました。なお、参考までに回答平均が最も低い職種は「法律」でした。
さらに、出社頻度がセクハラにどのように影響するかも確認しました。その結果、セクハラを受けたおよび見たと回答する割合は、出社頻度が高い(「ほぼ毎日出社」「週に3-4回出社」)場合に有意に高く、頻度が低い(「週に1-2回出社」「月に1-3回出社」「出社は月に1回未満」)場合に有意に低くなりました。対面勤務の方がセクハラを受けやすい/見やすい、という論理的に当然の結果ではありますが、リモートワークにはセクハラという観点からもメリットがあるといえるでしょう。

セクハラがもたらす就労心理の悪化

さまざまな先行研究では、セクハラは被害者社員の就労心理に大きな悪影響を及ぼすことが明らかになっています。この会社員2万人調査でも、「上司・同僚からセクハラを受けた」の質問に対して「5:あてはまる」を選択した回答者は、他の就労心理に関連する変数「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント(情緒的コミットメント)」「心理的安全性」においても有意に低く、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」「離職意志」が有意に高いという結果が示されました(図表2参照)。

【図表2】「上司・同僚からセクハラを受けた」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
「上司・同僚からセクハラを受けた」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

また、Miner-Rubino, K., & Cortina, L. M. (2007)によると[ 3 ]、セクハラは被害者だけでなく、それを目撃した同僚のウェルビーイングにも悪影響を与えるとされています。そこで会社員2万人調査結果に基づき、日本においても同様の事象が生じ得るか、また、ウェルビーイング以外の変数との関係はどうかを検証しました。その結果、「同僚がセクハラを受けている状況を見た」の質問に対して「5:あてはまる」を選択した回答者は、上記の「セクハラを受けた」と同様に「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント」「心理的安全性」が有意に低く、「バーンアウト」「離職意志」が有意に高いことが分かりました。つまりセクハラは、被害者だけでなくその場面を目撃した同僚にも悪影響を与えている可能性が高いのです(図表3参照)。

【図表3】「同僚がセクハラを受けている状況を見た」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
「同僚がセクハラを受けている状況を見た」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

おわりに:セクハラ対策の実践に向けた示唆

会社員2万人調査の結果から、日本の一部の職場では今もなおセクハラが発生しており、セクハラを受けた/見たという回答は女性管理職に多い傾向が見られました。セクハラ防止のために研修などの施策を実施する際、「管理職が部下の非管理職にセクハラをしないように」といった前提があるとしたら、実態とは乖離しているかもしれません。また、セクハラに関する質問への回答が職種によってばらつきがあったことも勘案すると、エンゲージメントサーベイを活用するなどして、個々の職場の実態に即した施策を展開すべきです。
また、セクハラは被害者だけでなく、その場面を目撃した同僚にも「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント」「心理的安全性」「バーンアウト」「離職意志」といった就労心理の面で悪影響を与えている可能性が高いことが分かりました。これらはいずれも組織や個人のパフォーマンスと有意な相関があるとされている変数です。仮にセクハラの発生が一部の職場だけで確認されたとしても、安易に特異な組織の限定的な問題と捉えるのは望ましくありません。企業経営の観点からも、セクハラの放置はあり得ないことと認識すべきでしょう。

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会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果


1 ]アンケートの対象・方法・期間などの概要はhttps://www.murc.jp/library/report/cr_240521/ を参照ください
2 ]本稿では有意水準を5%とし、有意性を判断しています
3 ]Miner-Rubino, K., & Cortina, L. M. (2007). Beyond targets: consequences of vicarious exposure to misogyny at work. The Journal of Applied Psychology, 92(5), 1254–1269.

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