会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果(2)パワーハラスメントの撲滅は重要経営課題

2024/07/12 石黒 太郎
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会社員のウェルビーイングやワーク・エンゲイジメントが他の指標とどのような関係にあるかを探るため、当社では日本国内の企業に在籍する約2万人を対象とするアンケート調査(以降、会社員2万人調査)を実施し[ 1 ]、統計的見地から詳細に分析しました。本連載『会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果』は、その分析結果から、日本企業の人材マネジメントにとって示唆となり得る内容を紹介しています。第1回[ 2 ]のセクシャルハラスメント(以降、セクハラ)に引き続き、第2回ではパワーハラスメント(以降、パワハラ)に関する分析結果の一部をお届けします。

直近1年間でのパワハラに関する属性データ

会社員2万人調査では、直近1年間での職場におけるパワハラについて、「上司・同僚からパワハラを受けた」と「同僚がパワハラを受けている状況を見た」の二つを五つの選択肢(5:あてはまる、4:ややあてはまる、3:どちらともいえない、2:ややあてはまらない、1:あてはまらない)で質問しました。結果は、5:あてはまる/4:ややあてはまるを選択した「上司・同僚からパワハラを受けた」が29%、「同僚がパワハラを受けている状況を見た」は3割を超えました(図表1参照)。セクハラでは「受けた/見た」がいずれも1割未満だったことに比べ、多くの職場で今もなおパワハラが生じている実態が見受けられました。

【図表1】直近1年間の職場におけるパワーハラスメントに関する回答割合
直近1年間の職場におけるパワーハラスメントに関する回答割合
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

また、上司・同僚からパワハラを受けたと回答(5:あてはまる/4:ややあてはまるを選択)した属性は、年齢では20~39歳よりも40~59歳が、性別では女性よりも男性の方がパワハラを受けたと回答する割合が有意に高い結果となりました[ 3 ]。さらに役職別に分析したところ、「管理職(部下あり)」および「管理職(部下なし)」が、管理職未満の「非管理職」や管理職を部下に持つ「上級管理職」よりもパワハラを受けたと回答する割合が有意に高くなりました。これらの結果から、パワハラは管理職から若手に対してよりも、上級管理職が中年男性管理職に行っている状況の方が実態に近いと推察されます。
続いて、職種(全33種)の観点から差異を確認したところ、パワハラを受けたと回答する割合が有意に高い職種は「物流・生産管理」「生産技術」「製造」「建設」の四つで、現業系職種で高い傾向にありました。
加えて、回答者が属する企業の創業年代との関係を確認した結果、創業が「1970年代以前」「1980年代」「1990年代」の企業の回答者は、2000年以降に創業した企業の回答者に比べてパワハラを受けたと回答する割合が有意に高くなりました。特に「1970年代以前」に創業した企業での平均値が最も高くなりました。つまり、歴史の長い企業ほどパワハラが組織文化として残っている可能性が示唆されます。

パワハラがもたらす就労心理の悪化

セクハラと同様に、パワハラも被害者社員の就労心理に大きな悪影響を及ぼす可能性が高く、会社員2万人調査でも、「上司・同僚からパワハラを受けた」の質問に対して「5:あてはまる」を選択した回答者は「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント(情緒的コミットメント)」「心理的安全性」が有意に低く、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」「離職意志」が有意に高い結果となりました。また、パフォーマンス行動(プロアクティブ行動・熟達行動・適応行動)も有意に低く、パワハラはセクハラ以上に組織への悪影響が危惧される結果となりました(図表2参照)。

【図表2】「上司・同僚からパワハラを受けた」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
「上司・同僚からパワハラを受けた」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

また、「同僚がパワハラを受けている状況を見た」の質問に対して「5:あてはまる」を選択した回答者は、上記のパワハラを受けたと同様に「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント」「心理的安全性」が有意に低く、「離職意志」「バーンアウト」が有意に高いことが確認でき、被害者だけでなく、その場面を目撃した同僚にも悪影響を与えている可能性が高いことが分かりました(図表3参照)。

【図表3】「同僚がパワハラを受けている状況を見た」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
「同僚がパワハラを受けている状況を見た」の質問に「5:あてはまる」を選択した回答者の就労心理
(出所)当社レポート「会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果」より作成

おわりに:パワハラ防止の実践に向けた示唆

会社員2万人調査の結果から、パワハラを受けたと回答する人が約3割存在し、「中高年」「男性」「管理職」「現業系職種」「歴史の古い企業」でその傾向が強いことが推察されました。しかし、一般的なパワハラ防止施策は「管理職が若手部下にパワハラしないようにする」ことが目的になっていることが多いのが実態です。パワハラ防止を真に図るべき対象は誰なのか、自社の状況を改めて精査する必要があるでしょう。
また、セクハラと同様に、パワハラは被害者だけでなく、その場面を目撃した同僚にも「ウェルビーイング」「ワーク・エンゲイジメント」「組織コミットメント」「心理的安全性」「バーンアウト」「離職意志」といった就労心理の面で悪影響を与えている可能性があることも分かりました。いずれも先行研究では組織や個人のパフォーマンスと有意な相関があるとされている変数です。直近1年間で3割の会社員が受けた/見たと回答しているパワハラの撲滅は、経営課題としての優先順位を上げて取り組む必要があるでしょう。

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【関連レポート・コラム】
会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果


1 ]アンケートの対象・方法・期間などの概要は https://www.murc.jp/library/report/cr_240521/ を参照ください
2 会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果 (1)実態に合わせたセクシャルハラスメント防止策を
3 ]本稿では有意水準を5%とし、有意性を判断しています

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