会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果(3)プロパー・中途の違いに配慮したエンゲージメント向上施策を
人的資本経営の推進において、昨今、ウェルビーイングやワーク・エンゲイジメントといった指標に注目が集まっています。これらの指標と他のさまざまな要素との関係を探るため、当社では日本国内の企業に在籍する会社員約2万人を対象にアンケート調査(以降、会社員2万人調査)を実施しました[ 1 ]。本連載『会社員2万人のウェルビーイング・エンゲージメント調査結果』では、会社員2万人調査を統計的見地から詳細に分析の上、日本企業の人材マネジメントにとって示唆となり得る内容をテーマごとにご紹介します。
第3回である本稿では、転職経験とワーク・エンゲイジメントの関係を取り上げます。転職経験がなく、新卒で入社した会社に勤め続けている社員(プロパー社員)と中途社員のワーク・エンゲイジメントスコアの違いやワーク・エンゲイジメントに関連する因子の違いを明らかにした上で、職場におけるエンゲージメント向上施策を検討する際のポイントをお伝えします。
会社員の何割が転職を経験しているのか?
会社員2万人調査では、20代の約4割、30~60代は約6~7割が転職経験を有していました。
社員のワーク・エンゲイジメントを向上させる施策は、プロパー社員と中途社員の違いに配慮した設計が重要であると考えられます。現在の環境に至るまでのキャリアがプロパー社員と中途社員とでは大きく異なり、ワーク・エンゲイジメントの傾向やワーク・エンゲイジメントに関連する因子に違いが見られると想定されるためです。そこで、具体的な違いを明らかにするため、転職経験別のワーク・エンゲイジメントスコア(ワーク・エンゲイジメントの高さを示す点数)やワーク・エンゲイジメントに関連する因子を比較しました。
転職経験別 ワーク・エンゲイジメントスコアの推移
まず、ワーク・エンゲイジメントスコアを転職経験別・年代別に集計し、対応のないt検定を行いました。t検定とは、調査で得られた標本における属性ごとの平均値について、統計的に「差があるか」を確かめる分析手法です。t検定の結果、20代と30代では、プロパー社員のワーク・エンゲイジメントスコアが中途社員に比べて有意に低いことが分かりました[ 2 ]。また、プロパー社員のワーク・エンゲイジメントスコアが30代以降有意に上昇していくのに対し、中途社員のワーク・エンゲイジメントスコアは20代と30代、50代と60代で有意な差が見られた一方で、30代と40代、40代と50代では有意な差は見られませんでした。つまり、プロパー社員と中途社員とではワーク・エンゲイジメントスコアの年代による傾向が異なることが明らかになりました。
転職経験別 ワーク・エンゲイジメントに関連する因子
次に、転職経験別にワーク・エンゲイジメントを目的変数とする重回帰分析を行いました。重回帰分析とは、ある事象に対して影響を及ぼすとされる複数の要素について影響度を数値化し、その事象の結果を予測する分析手法です。重回帰分析の結果、ワーク・エンゲイジメントとの関連が大きい上位3因子は、プロパー社員・中途社員いずれも「役割認識・職務適正感」(社員の能力や希望に合った仕事であること)、「組織コミットメント」(組織に対する愛着や帰属意識)、「心理的資本(楽観性)」(仕事に対する楽観的な心構え)でした。一方、これらに次いでワーク・エンゲイジメントとの関連が大きい2因子は、両者において大きく異なることが分かりました。プロパー社員では「LMX[ 3 ]」(上司との信頼関係)、「やってみよう因子[ 4 ]」(自己肯定感など主体性に関わる因子)であるのに対し、中途社員では「仕事の要求度」(量的・質的な仕事の要求水準)、「成長機会」(成長機会の付与やそれに伴う成長実感)という結果でした。
また、年代別に区切って重回帰分析を行った結果は図表4の通りです。
重回帰分析の結果、プロパー社員・中途社員のいずれにおいても、ワーク・エンゲイジメントに「役割認識・職務適正感」「組織コミットメント」、「心理的資本(楽観性)」が関連していました。この結果を踏まえると、社員のエンゲージメントを高めるためには、プロパー社員・中途社員に共通して、各社員のやりたい仕事や能力に合った仕事を付与すること、組織への愛着や帰属意識を高めること、仕事にポジティブに取り組める環境を整えることが重要と考えられます。
一方で、ワーク・エンゲイジメントに関連する因子はプロパー社員と中途社員とで違いも見られたことから、両者の違いに配慮した取り組みも有効です。例えば、プロパー社員のワーク・エンゲイジメントには「LMX[ 3 ]」と「やってみよう因子[ 4 ]」が関連していたことから、上司と部下が信頼し合える関係を構築し、社員が挑戦しやすい環境を整えることが重要です。部下を適切にサポートしつつ、チャレンジを促せるようなマネージャ―の教育が求められます。
中途社員のワーク・エンゲイジメントには、「仕事の要求度」と「成長機会」が関連していたことから、量・質ともに要求度の高い仕事を任せ、成長を実感できる環境の提供が重要です。中途社員が「この会社で成長できる」と認識できるためには、成長につながる仕事のアサインや教育機会をタイムリーに提供できる仕組みの整備が有効でしょう。
また、年代別で最もワーク・エンゲイジメントが低かった20代プロパー社員の重回帰分析結果に着目すると、「組織コミットメント」と「心理的資本(エフィカシー)」(=職務を遂行する上での自信)が他の年代・属性に比べると大きく関連していました。20代プロパー社員のワーク・エンゲイジメントを改善するためには、組織に愛着や帰属意識を持てるよう職場でのオンボーディングを強化し、自信を持って仕事に取り組めるようなマネジメントの工夫が有効でしょう。
おわりに:実践に向けた示唆
今回の分析では、プロパー社員と中途社員のワーク・エンゲイジメントにどのような共通点と違いがあるかが明らかになりました。エンゲージメント向上施策の検討においては、自社の社員のワーク・エンゲイジメントをプロパー社員・中途社員別に分析し、正しく理解した上で、それぞれの違いに配慮した施策も検討することが重要でしょう。
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会社員のウェルビーイングとエンゲージメントに関する2万人調査結果
[ 1 ]アンケートの対象・方法・期間などの概要は https://www.murc.jp/library/report/cr_240521/ を参照ください
[ 2 ]本稿では有意水準を5%とし、有意性を判断しています
[ 3 ]LMX(Leader-Member Exchange)は、リーダシップに関する理論です。上司と部下が信頼し合い好意的な関係を築けているとLMXが高くなります。
[ 4 ]やってみよう因子とは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、武蔵野大学ウェルビーイング学部長である前野隆司氏が提唱している主体性に関わる因子で、ウェルビーイングに影響を与えるとされています。
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