TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(3)Locateフェーズ

2024/10/10 渡邉 敬士
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TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)開示が進むよう、TNFD公式サイトはさまざまなガイダンスを発行・掲載し、開示に有用な多くのデータツールを紹介しています。TNFD開示に向けたポイントを、全6回にわたり解説する本コラム。3回目となる今回は、TNFDが開示に必要な項目を抽出・分析するアプローチとして推奨する、「LEAPアプローチ」の最初のステップ、「Locate」について解説します。

自然に依存し、インパクトを与える場所や事業活動を特定するLocateフェーズ

Locateフェーズは、「スコーピング」で定めた分析範囲の中で、組織と自然との接点がどこにあるのか、自然関連の依存・インパクト、リスクや機会といった、自然関連課題の重要な発生源はどこかを特定するフェーズです。組織がどこでどのような活動を行っているのか、セクター、バリューチェーン、地理的位置別に把握し、さまざまなツールを使用して分析することで、今後の「Evaluate」、「Assess」フェーズに必要な情報を整理していきます。LEAPアプローチガイダンス[ 1 ]は、Locateフェーズで期待される主なアウトプットに以下3点を挙げています。

  • (1)ビジネスモデルやバリューチェーンにおける潜在的に重要な活動のリスト
  • (2)組織が活動する、または資産を有する「要注意地域」のリスト、およびそれら地点の俯瞰的な評価情報のセット
  • (3)組織にとって重要な自然関連の依存・インパクト、リスクや機会が考えられる地点情報リスト

同ガイダンスは、Locateフェーズの分析をL1~L4の四つのステップに分けて進めることを推奨しています。【図表1】は、Locateフェーズにおける各ステップの分析の視点や活用できるツールを整理したものです。

【図表1】Locateフェーズの全体像
Locateフェーズの全体像
(出所) LEAPアプローチガイダンスを基に当社作成
  • L1:ビジネスモデルとバリューチェーンの範囲を把握する
    L1では、「どこで何を行っているのか」を明らかにします。セクター(産業・業界)別、バリューチェーン別の組織の活動は何か、どこで行っているのかを整理し、可視化していきます。ガイダンスは、L1においてバリューチェーンの地点の把握(例:原料生産地点)に言及していません。しかし、例えばL2で使用が推奨されているツールBiodiversity Risk Filter(BRF)では、住所情報を用いて複数拠点の分析を一度に行うことができるため、組織の活動地点を直接操業拠点のみならず、バリューチェーンの上流・下流を含めてL1の段階で把握しておくことで、効率的な分析が可能になります。
  • L2:依存とインパクトをスクリーニングする
    L2では、L1で整理したセクター、バリューチェーン、直接操業拠点のうち、「自然への依存やインパクトが中程度または高程度の可能性があるものはどれか」を明らかにします。外部ツールを用いて、セクター/バリューチェーン/直接操業場所の、自然資本への一般的な依存とインパクトを確認していきます。使用ツールによっては分析の粒度が粗く(国レベルで同一評価になるなど)、スクリーニング結果に対し、「本当にこの評価で正しいのか」という疑問が湧いてくることが考えられますが、評価結果の解像度を上げていく作業は、次のEvaluateフェーズで行います。
  • L3:自然との接点を明らかにする
    L3ではまず、地理的情報に着目します。L2で特定した、自然への依存やインパクトが中程度または高い可能性があるセクター、バリューチェーン、直接操業拠点について、住所や緯度・経度情報を用いてその正確な地点を把握します。次に、自然への依存やインパクトが中程度または高程度の可能性があるセクター、バリューチェーン、直接操業拠点の地理的位置に関連するバイオーム[ 2 ]と生態系を特定します。

    例えばセクターを切り口にいうと、食品・飲料セクターやパルプ・紙製品セクターは、バイオームの一つである熱帯雨林と関連する可能性が高いと考えられます。熱帯雨林が広がる地域に直接操業拠点やバリューチェーンが位置する場合、次のEvaluateフェーズで、より詳細な自然への依存やインパクトを分析していく必要があります。

    L3の分析精度を高めるために、バリューチェーンの上流・下流の位置情報の正確な把握が求められます。一方で、バリューチェーン全体の位置情報収集には労力がかかるため、必要な情報を適切な手段で効率的に収集していくことも重要です。

  • L4:インパクトを受けやすい地点との接点の特定
    最後のステップであるL4では、(1)全ての直接操業拠点と、(2)自然への依存やインパクトが中程度または高程度の可能性があると評価されたセクター、バリューチェーンにおける「要注意地域」を、外部ツールを用いて特定していきます。「要注意地域」とは、TNFDが定める以下の五つの地域のいずれかに当てはまる地域を指します[ 3 ]。

    • 生物多様性にとって重要な地域
    • 生態系の完全性が高い地域
    • 生態系の完全性が急速に低下する地域
    • 物理的な水リスクが高い地域
    • 先住民・地域コミュニティー・ステークホルダーへの便益を含む生態系サービスが重要な地域

Evaluateフェーズで分析結果を再評価する

Locateフェーズでは、さまざまな外部ツールを活用しながら、セクター、バリューチェーン、地理的位置別に想定される一般的な自然への依存やインパクトへの評価を行います。次回のコラムでは、Locateで得られた分析結果に対して、組織に固有な事情を反映した上で再評価し、詳細な分析を加えることで、組織がどのような自然への依存やインパクトを与えているのかを特定していく、Evaluateフェーズについて解説していきます。

【関連サービス】
自然資源管理(生物多様性、森林、海洋、持続可能な農林水産業、食料・消費者、TNFD)
気候変動(脱炭素、エネルギー、排出量削減戦略、TCFD)

【資料ダウンロード】
『TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応』

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1 ]TNFD「Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: The LEAP approach Version 1.1」https://tnfd.global/wp-content/uploads/2023/08/Guidance_on_the_identification_and_assessment_of_nature-related_Issues_The_TNFD_LEAP_approach_V1.1_October2023.pdf(最終確認日:2024/8/23)
2 ]TNFDでは、「一般的に、平均的な降雨量と気温パターンに対応して生息する植物の種類によって定義される地球規模の地帯」と定義されている。ツンドラ、サンゴ礁、サバンナなど。
3 ]要注意地域の判断基準の詳細は、LEAPアプローチガイダンスv1.1 p.58~60を参照。なお、TNFD提言で開示が推奨されている「優先地域(Priority locations)」は、自然にとって重要な場所である「要注意地域(Sensitive locations)」、または/かつ、組織にとって重要な場所である「マテリアルな地域(Material locations)」を指す。

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