TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(4)Evaluateの解説

2024/10/11 上木 雄太、長瀬 正和
Quick経営トレンド
サステナビリティ
生物多様性
気候変動

企業のTNFD開示に向けたポイントを解説している本コラム。前回は、LEAPアプローチの最初のステップである「Locate」を取り上げました。Locateの目的は、自然関連の依存やインパクト、リスクや機会といった、自然関連課題の発生源となる「場所」を特定することでした。4回目となる今回は、Locateの次のステップである「Evaluate」の目的やプロセスを解説します。

Evaluateについて

LEAPアプローチにおけるEvaluateとは、企業にとって潜在的に重要な自然に関する依存とインパクトを評価することです。企業は、環境資産や生態系サービスに依存しながら事業を営む一方で、自らの事業活動により、自然に対して正または負の影響を与える可能性があります。このように、企業活動と自然は相互に関係し合っているため、依存やインパクトに起因する環境資産や生態系サービスの変化は、企業にとっての自然に関連したリスクや機会を生じさせることにつながるのです。そのためEvaluateフェーズは、次の「Assess」フェーズにおける、自然に関連したリスクや機会を特定するために必要なファーストステップといえます。TNFDは、EvaluateフェーズをE1~E4の四つのプロセスに沿って進めることを推奨しています。

【図表1】依存・インパクト・リスク・機会の関係図
依存・インパクト・リスク・機会の関係図
(出所)TNFD「Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: The LEAP approach Version 1.1(p24)」より当社仮訳・作成

E1:環境資産・生態系サービス・インパクトドライバー 1 の特定

E1では、事業活動やビジネスプロセスと、環境資産・生態系サービス・インパクトドライバーの関係性を明らかにします。E1では以下の三つのリストを作成し、分析することが推奨されています。

  • 事業活動・ビジネスプロセスのリスト
  • 環境資産と生態系サービスのリスト
  • 事業活動・ビジネスプロセスに関連するインパクトドライバーのリスト

また、Locateフェーズと並行してE1の分析を実施することも可能です。例えば建設業では、まずLocateフェーズで要注意地域における原材料の調達から建設工事、建設物の使用に至るバリューチェーン上の事業活動と、事業活動に関連する環境資産(森林、地下水など)や、生態系サービス(木材供給機能、森林の気候調節機能)をひも付けて整理します。その後、E1で新たに森林の伐採に伴う野生生物への影響、工事の際の騒音といったインパクトドライバーを整理することが想定されます。

E2:依存とインパクトの特定

E2では、事業活動・ビジネスプロセスと自然との間に、どのような依存・インパクトがあるのかを特定します。本プロセスでは、E1で特定したインパクトドライバーのみならず、新たに外的要因を考慮する必要があります。自然の状態は、当該企業の事業活動による直接的または間接的なインパクトに加えて、河川の流路変更、地質活動などの自然の力や気候変動、土地利用変化などの自社以外の人為的活動に起因する、外部のインパクトによっても変化するからです。

次に、インパクトドライバーおよび外的要因と自然の状態や、生態系サービスの利用可能性との間の依存・インパクトを明らかにします。TNFDは、企業がインパクト経路と依存経路を基本にして分析を進めることを推奨しています。各経路の分析により、生態系サービスに依存する主体と、生態系サービスを支える環境資産を特定し、事業活動と自然との間にどのような依存・インパクトがあるかを整理します。

【図表2】依存経路とインパクト経路
依存経路とインパクト経路
(出所)TNFD「Guidance on the identification and assessment of nature-related issues: The LEAP approach Version 1.1」を基に当社仮訳・作成

最後に、特定した依存・インパクトの重要性を把握することになりますが、TNFDは分析ツールの一つとして、WWFのBiodiversity Risk Filter(以下、BRF)[ 2 ]を挙げています。企業はBRFを使用して、自社が該当するセクターにおける、一般的な自然関連の依存・インパクトの程度を定性的に把握することが可能ですが、スコーピングした製品や要注意地域の特性に応じた分析を行うことで、精緻化することが求められます。

E3:依存とインパクトの測定

E3では、企業の自然への依存および自然に対する正または負のインパクトの規模と範囲を、TNFDが提供する評価指標を用いて測定します。具体的には、インパクトドライバー、自然の状態の変化、生態系サービスの変化を定量化していきます。なお、TNFDは、インパクトドライバーの重要性を測定する際、生態系が転換点に近付いているか、他の組織が同様のインパクトをもたらすかなど、複数の情報を考慮に入れて多角的に検討することを推奨しています。例えば東急不動産ホールディングスでは、広域渋谷圏(東急グループが定義している渋谷圏を中心とした半径2.5km圏内)における建物緑化によるインパクトについて、動植物のモニタリングやグループが保有する物件の緑地面積の割合を測定することで、定量的に評価しています[ 3 ]。

E4:インパクトマテリアリティの評価

E4では、特定されたインパクトのうち、どのインパクトが自社にとって重要なのかを明らかにします。TNFDでは、インパクトマテリアリティの定義が一義的でないことから、GRIやESRS(欧州サステナビリティ報告基準)におけるマテリアリティの定義を参照して、インパクトマテアリティを評価し、開示することを推奨しています[ 4 ]。

まとめ

本コラムでは、LEAPアプローチにおけるEvaluateの目的やプロセスについて解説しました。次回のコラムでは、LEAPアプローチのAssessフェーズについて解説していきます。

【関連サービス】
自然資源管理(生物多様性、森林、海洋、持続可能な農林水産業、食料・消費者、TNFD)
気候変動(脱炭素、エネルギー、排出量削減戦略、TCFD)

【資料ダウンロード】
『TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応』

【関連レポート・コラム】
TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(1) TNFDの開示動向と開示に向けた準備
TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(2)スコーピングの解説
TNFDの基礎知識:LEAPアプローチの解説(3)Locateフェーズ
TNFD最終提言v1.0の概要
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(1)「自然の定義と依存・影響、リスク・機会」
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(2)「LEAPアプローチ」
TNFDの基礎知識:最終提言に向けた連載(3)「情報開示の4つの柱と6つの一般要求事項」


1 ]TNFDは、インパクトドライバーを「気候変動」、「陸上・淡水・海洋利用の変化」、「汚染・汚染除去」、「資源の利用と補給」、「外来種の侵入、除去」という五つの自然の変化の要因に分類している。
2 ]BRFには、種(野生生物)や生態系、保護地域、森林破壊、生息地の破壊、汚染、農業のための土地利用変化など、生物多様性損失に関与する情報が含まれており、企業や金融機関が自社のリスクを評価することができる。
3 ]東急不動産ホールディングス「TNFDレポート〜東急不動産ホールディングスグループにおけるネイチャーポジティブへの貢献~(第2版)2024年1月19日」https://tokyu-fudosan-hd-csr.disclosure.site/pdf/environment/tnfd_report_01.pdf(最終確認日:2024/9/19)
4 ]「GRI 3:マテリアルな項目2021」において、マテリアルな項目とは、「組織が経済、環境、ならびに人権を含む人々に最も著しいインパクトを与える項目」とされている。また、「ESRS 1:全般的開示要求事項」のインパクトマテリアリティの定義では、「サステナビリティに関する問題が、短期、中期、長期の時間軸において、事業が環境や人々に対して及ぼしている、実際または潜在的なインパクトが大きければ重要である」(当社仮訳)とされている。

執筆者

  • 上木 雄太

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    ビジネスアナリスト

    上木 雄太
  • 長瀬 正和

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    マネージャー

    長瀬 正和
facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。