若手社員の早期離職防止(1)若手社員の離職問題のこれからを考える

2024/10/25 田嶋 裕太
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現在、若手社員の離職問題が世間の大きな関心事になっています。当社が提供している人・組織領域のコンサルティング(主に人事制度改定や研修)について、経営層や人事部門へ検討に至った背景を問うと、下記のような回答が返ってくることが増えています。

「能力が高くやる気もある若手社員が、年齢が若いという理由で昇進できないため、辞めてしまう。年功的な人事制度を見直したい」

「昔から若手社員の離職は一定数あったが、最近は『そもそも、自社の事業や業務への興味が湧かなくて』という離職理由が増えた。若手社員に仕事のやりがいを感じてもらう手だてはないものか?」

「成果を上げた人が報われる会社にしようと人事制度を改定したが、管理職の評価に対してメンバーが納得感を持っていない。このままでは前途ある若手社員が辞めてしまうリスクがあるため、評価者を教育したい」

「管理職が多くの実務を抱えており、メンバーの育成に十分手が回らず、放任された若手社員が辞めてしまう。管理職研修で育成の重要性を伝えてほしい。そもそも、管理職が“プレーヤー業務”に追われている状態を是とする評価制度に問題があるため、管理職の“マネジメント業務”を評価する仕組みに変えていきたい」

これらの回答に共通することは、“若手社員の離職が人事制度改定や研修を検討する一つの引き金となっている“という点です。

若手社員の離職問題への関心が高まっている背景にあるもの

なぜ今、若手社員の離職問題がフォーカスされているのでしょうか。その背景には、人手不足問題があります。総務省の令和4年版情報通信白書によると、「2050年には生産年齢人口が現在の約7割になる」という予測があります。各社が“外国人の積極採用”、“シニア活用”、“女性活躍”と、人手を確保する施策に注力している時に、足元で退職が増えては元も子もありません。

生産年齢人口減少の中、各社が採用を増やせば売り手市場となり、採用も難しくなります。その状況下で、「苦労して採用した若手社員が辞めていく」という現実は、問題視されざるを得ません。

若手社員の離職問題の要因

では、若手社員が辞めてしまう要因はどこにあるのでしょうか。当事者である若手社員に、内閣府が離職の理由について調査した結果が下記となります。[ 1

1位:仕事が自分に合わなかったため
2位:人間関係がよくなかったため
3位:労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため

内閣府以外にも民間企業各社がさまざまな調査を実施していますが、結果は類似しており、いずれも“仕事のミスマッチ”、“職場の人間関係”、“会社の労働条件・待遇”といった要因が上位に挙がっています。

若手社員の離職問題のこれから

これらの離職要因に対して、各社はさまざまな対策を講じています。例えば、働き方改革やベースアップに取り組むことで、“会社の労働条件・待遇”を改善する会社が増えています。また、“職場の人間関係”と“仕事のミスマッチ”についても、人事異動、社内公募、自己申告制度などを活用して、人間関係の固定化やミスマッチを回避しようと工夫を凝らす会社も存在します。

ただし最近は、これらの対策だけでは離職を防げないケースがいくつも出てきています。

筆者が実際に支援したある会社では、退職する若手社員に理由を尋ねたところ、「そもそも自社で取り扱っている商品に興味がなくて……」という身もふたもない回答がありました。その会社では、人事異動などの人事施策は実施していましたが、「仕事に興味が持てない」という理由で退職されてしまったのです。また昨年、各社の人事部門責任者を対象とした意見交換の場で、「貴社の若手社員の離職理由」を聞いて回った際は、“転勤が嫌”という要因も挙がりました。

筆者にはいずれのケースも、「売り手市場であることが“若手社員の離職問題”をより悩ましくしている」と見えます。新卒・中途を問わず採用が難しくなる中、人員確保が必要な各社は「基準を下げて採用する」という手を打つことになり、その結果、“職務適性の低い人”や“入社動機の弱い人”が入社する確率が、一層高まってしまうのです。そのため、“仕事のミスマッチ”や“転勤が嫌”という離職理由は、今後も増加していく可能性が高いと考えられます。

「今後はこれまで以上に、“職務適性の低い人”や“入社動機の弱い人”が入社する確率が高まる」という前提の下、どのような対策を打てば若手社員の離職を防げるでしょうか。その鍵は、若手社員自身に対する“動機付け”だと考えています。次回以降は、若手社員の離職問題への対処について考察していきたいと思います。


1 ]内閣府『平成30年版 子供・若者白書』初職の離職理由

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