サーキュラーエコノミー移行を通じた企業のビジネスモデル変革 ~ISO 59000シリーズ、GCPへの対応~
2024年5月、サーキュラーエコノミーに関する規格である「ISO 59000シリーズ」[ 1 ]が発行されました。また、2025年末には企業のサーキュラーエコノミーの取り組みを促進するための、「グローバル循環プロトコル(以下、GCP)」の発出が予定され[ 2 ]、環境省も開発に協力を表明するなど、サーキュラーエコノミー移行に向けた企業の取り組み状況に対して、ステークホルダーの関心が集まりつつあります。
サーキュラーエコノミーへ移行するための企業の取り組みは、環境負荷を低減する側面に加え、収益力を強化するポジティブな側面も有します。ステークホルダーが各社の取り組みを比較したり、評価したりする際には、指標が参照されます。しかし、世の中に存在するサーキュラーエコノミーに関する指標は多種多様であり、その全てに対応することは困難を伴います。そこで本コラムでは、企業がステークホルダーの要求に応え、かつ収益力の強化などビジネスモデルの変革を図る際の視点について解説します。
ISO 59000シリーズ、GCPについて
ISO 59000シリーズとは、ISO 59004などサーキュラーエコノミーに関する複数の国際規格を総称するものです。これらの規格により、サーキュラーエコノミーに関連するあらゆる組織の活動の実施に対する枠組み、指針、支援ツールおよび要求事項を開発し、持続可能な開発への貢献を最大化することが目指されています[ 3 ]。
また、GCPとは循環経済の取り組みを促進するための国際的なイニシアチブを指し、企業に関連するところでは、循環性を評価するための指標や目標の開発が進められています【図表1】。
指標の全体像
サーキュラーエコノミーに関する指標は、フローに着目したものが多いといえます【図表2】。企業に入ってくるフロー(インフロー)としては、原材料や梱包材の他、水やエネルギーといった生産活動に使用する指標が設けられています。また、企業から出ていくフロー(アウトフロー)としては、製品に関するものの他、水や廃棄物に関する指標が設けられています。
その他の指標としては、製品寿命に関するもの、資源生産性に着目するものなどが挙げられます。
このように、指標が多種多様であるだけでなく、その策定主体や、各指標を参照するステークホルダーもさまざまです。企業は、ステークホルダーが比較に用いる「物差し」となる指標を、どのように特定し、開示につなげるのがよいのでしょうか。
サーキュラーエコノミー移行を要請するステークホルダー
指標を含め、情報開示を強く要請するステークホルダーとして、政府や株式市場などを一番にイメージされる方が多いかもしれません。しかし、実際には取引先が、CFP(カーボンフットプリント)[ 5 ]や未使用資源(いわゆるバージン材)の削減を目的に、開示を要求することも大いに考えられます。さらに、消費者や地域社会が事業活動を通じた環境負荷に対して関心を持つ中で、サーキュラーエコノミーに関する他の指標に焦点が当たるケースなども考えられます。
これらのステークホルダーからの要請に対して、「エネルギー使用量は把握しているが原材料や製品の重量は不明」というように、指標によってはデータを取る仕組み自体が存在しないケースもあるでしょう。新たにデータ取得の仕組みを作ってでも対応すべきものがあるか、ステークホルダー別に要請内容を整理することも重要だといえます。
指標管理を通じたポジティブな影響の創出
非財務情報に関するさまざまな開示基準の開発が行われる中で、温室効果ガス排出量に関するデータの把握・開示が一般化しつつありますが、今後はサーキュラーエコノミーについても同様の流れがやって来ると予想されます。
新たに指標を管理するには一定の労力を要し、また、規制対応として守りの姿勢でデータを取得するための仕組みを作る場合には、企業の負担感が一層増すかもしれません。しかし見方を変えると、指標管理には競争力の強化として、攻めの姿勢やポジティブな影響を創出する側面もあります。
例えば、自社と競合他社の資源生産性の状況を把握することで、一つの製品から得られる収益をより高めるビジネスモデルを検討でき、結果として売り上げ当たりの資源使用量を低減させられる可能性があります。さらに、インフローおよびアウトフローの状況を把握することによって、未使用資源の使用や廃棄物の発生がより少ない生産方法に移行できれば、原材料使用の削減につながり、結果として気候変動や生物多様性など、他の環境課題でも望ましい成果を上げられる可能性があります。
このように、サーキュラーエコノミーに関する指標管理によって現状を把握することは、より競争優位性のある事業を行う出発点となる可能性を秘めているのです【図表3】。
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[ 1 ]ここでは、ISO 59004、ISO 59010、ISO 59020、ISO/TR 59032を指す。その他、今後発行が予定されるISO/CD TR 59031、ISO 59040を含む場合もある。
[ 2 ]ISO「ISO/TC 323 – Circular economy」https://www.iso.org/committee/7203984.html(最終確認日:2024/11/5)
[ 3 ]WBCSD「Global Circularity Protocol for Business Impact Analysis」https://www.wbcsd.org/resources/gcp-impact-analysis/(最終確認日:2024/11/5)
[ 4 ]国際的に認められたGHG排出量の算定と報告の基準。
[ 5 ]商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクルの全体で排出される温室効果ガスを定量的に算定したもの。
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