ガバナンス改革の実装(1)

2024/11/29 中山 尚美、花井 宏介、辻本 理紗
Quick経営トレンド
ガバナンス・リスク・コンプライアンス
コーポレートガバナンス
役員指名
役員報酬

本連載では、経営を取り巻く環境やリスクが多様化・複雑化する中、日本企業が競争力を高め、成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題であり、何をすべきかについて、ガバナンス改革の実装の観点から論じていきます。
1回目となる本稿では、日本企業のコーポレートガバナンス(以下、CG)改革の現在地と、今後の課題について整理します。

日本企業のCGコード対応は進展

2015年のCGコード導入から10年目となり、2022年時点で東証プライム上場会社の大半が、90%以上の原則をコンプライしています[ 1 ]。上場会社を中心としたCGコード対応は、この10年間で着実に進展しました。
例えば、独立社外取締役の人数や比率の確保、指名委員会・報酬委員会の設置、政策保有株式の縮減などが進み、企業の意思決定の体制とプロセス、および議論のあり方に変化がもたらされました。また、社長・CEOのサクセッションプラン(後継者計画)の導入や、役員報酬における業績連動報酬比率の上昇など、役員の指名・報酬に関する客観性と透明性の確保や、株主との価値共有に取り組む企業も年々増えています。

課題が残るCG改革の実装

こうしたCGコード対応の進展に対し、「形式は整えているが、実質面が伴っていない企業も存在するのではないか」という指摘があります。例えば、社長のサクセッションプランがあるといっても、実際には指名委員会や取締役会がほとんど関与・監督していない場合です。また、指名・報酬の委員会を設置したものの、年間1、2回しか開催されていないという場合、実質的に活用されている――つまり実装されているとはいえません。
新しい仕組みや制度を実装することとは、「何を目指しているか」という改革の目的を軸として、既存の慣例・慣習にとらわれず、知識・意識・方法を新たに求められるものに入れ替え、その仕組みや制度を活用していくことです。
上述の指摘は、CGコードにコンプライできるよう形は整えたものの、持続的成長や企業価値向上につながる実装ができていないというものであり、日本企業が長引く停滞や低迷から脱却できない要因の一つだと考えられています。

企業価値向上への道半ばにある日本企業

実際に、CGコード対応は進んだにもかかわらず、日本企業のROE(自己資本利益率)やPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)は欧米との比較において依然低水準にあり、国際的な地位は低下したままです[ 1 ]。そのため、東京証券取引所は2023年3月、上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」の要請を出しました[ 2 ]。
この要請後、1年を経過した際の振り返りでは、多くの企業で要請に基づいた開示を始めた一方で、投資家との目線にずれがある、またはいまだ開示に至っていない企業もあることが課題に挙げられています。つまり、「改革は始まったばかり」だとされています[ 3 ]。

CG改革を実装するための今後の課題

こうした日本企業の状況を基に、経済産業省の「持続的な企業価値向上に関する懇談会」において、「座長としての中間報告」が提示されました。その中では、今後の課題が以下の五つに再整理されています[ 4 ]。

課題1:企業価値に対する企業と投資家との間の認識のずれ
課題2:長期視点の経営の重要性
課題3:経営チーム体制の強化の必要性
課題4:取締役会の実効性の強化
課題5:資本市場の活性化

企業が、長引く停滞・低迷や緩慢な衰退から脱却し、「稼ぐ力」を取り戻していくためには、CG改革を形だけにとどめず、実装することが必要です。そこで、2回目以降では、これら五つの課題のうち、課題3の「経営チーム体制の強化の必要性」と、4の「取締役会の実効性の強化」についてCG改革の実装の点から着目し、論じていきます。

【関連サービス】
ガバナンス改革
役員指名・報酬、コーポレートガバナンス

【関連資料】
新しい時代のガバナンス

【関連レポート・コラム】
新しい時代のガバナンス(1)日本企業を取り巻く経営環境
新しい時代のガバナンス(2)日本企業の競争力
新しい時代のガバナンス(3)日本企業における不祥事①
新しい時代のガバナンス(4)日本企業における不祥事②
新しい時代のガバナンス(5)日本企業に求められる「ガバナンス」


1 ]経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 第1回事務局説明資料」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/001_04_00.pdf(最終確認日:2024/10/18)
2 ]東京証券取引所上場部「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」https://www.jpx.co.jp/news/1020/cg27su000000427f-att/cg27su00000042a2.pdf(最終確認日:2024/10/18)
3 ]東京証券取引所上場部「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する今後の施策について」https://www.jpx.co.jp/news/1020/mklp77000000hqqd-att/mklp77000000hqt9.pdf(最終確認日:2024/10/18)
4 ]経済産業省 経済産業政策局「持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告)」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/improving_corporate_value/pdf/20240626_1.pdf(最終確認日:2024/10/18)

執筆者

  • 中山 尚美

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    中山 尚美
  • 花井 宏介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第2部

    マネージャー

    花井 宏介
  • 辻本 理紗

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    コンサルタント

    辻本 理紗
facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。