ガバナンス改革の実装(2)
本連載では、経営を取り巻く環境やリスクが多様化・複雑化する中、日本企業が競争力を高め、成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題であり、何をすべきかについて、ガバナンス改革の実装の観点から論じます。
2回目となる本稿では、「取締役会の実効性の強化」について、監督と執行の両輪としての機能強化を概観した上で、求められる取り組みについて考察します。
車の両輪としての監督機能と執行機能
取締役会が担う監督機能と経営陣が担う執行機能は車の両輪に例えられ、両機能が相互に作用し合う関係にあります。そのため、取締役会の実効性は取締役会単独で捉えるのではなく、執行側との相互作用の点から考えることが必要です。この相互作用の中で経営戦略を作り上げ、また、実質的なガバナンス改革を推進することが基本となります。
取締役会の実効性強化の鍵となる社外取締役
本コラムの第1回で述べたように、独立社外取締役の人数や比率の確保、指名委員会・報酬委員会の設置といった形式面の改革が多くの上場企業で進展し、取締役会における社外取締役の影響力が高まりました。その結果、取締役会の実効性強化の鍵の一つとして、社外取締役が果たす役割・責務に注目が集まっています。
社外取締役の役割・責務は、会社法やコーポレートガバナンス・コードが前提となります。上場企業の取締役(社内・社外)は、会社法に基づき株主からの付託を受け、持続的成長と企業価値向上に寄与する役割・責務を負っています。その上で、社外取締役には、経営陣から独立した客観的な立場から助言や監督を行うことが求められています。
ただし、ガバナンス体制や取締役会の構成、経営課題などは各社各様であるため、取締役会のあり方も会社ごとに異なります。そのため、社外取締役に期待される役割・責務も一律ではなく、自社としての内容を描き定める必要があります。その内容を個々の社外取締役に説明し、理解・納得を得ておくことが、実効性強化へ向けた出発点となります。
社内取締役や経営陣に求められること
上述した社外取締役に期待する役割・責務に基づいて、必要な知識・スキルのトレーニングや、情報提供などの活動サポートおよび評価などを取り入れていくことで、取締役会の実効性を高める効果が期待できます。
しかし、社外取締役だけにアプローチすればよいということではありません。社内取締役や、車の両輪である執行を担う経営陣にも、自社の取締役会のあり方と、社外取締役へ期待する役割・責務について浸透させることが不可欠です。それはすなわち、役割分担を明確に自覚し、監督・執行の双方が自らに課せられた責任を果たすことにつながります。
なお、以前の日本企業では、「取締役は、執行を担う経営陣よりも上位である」とする考え方が一般的に取り入れられていました。さらに、取締役の中に専務取締役、常務取締役などの役付によって、上下の序列をつけることも一般的でした。また、取締役や経営陣のほぼ全員が生え抜きの内部出身者で占められる企業が多かったため、年次の序列意識も強く存在していました。つまり、経営の監督や執行は、社長を頂点に序列づけされた関係の中で行われていたこととなり、会社の中長期的な持続的成長に対して、必ずしも合理的ではなかった可能性があります。
その後、政府主導のガバナンス改革が進められ、監督と執行は上下関係ではなく機能が異なるものであり、両輪であるという考え方が徐々に浸透している状況にあります。例えば、取締役会の中の序列をなくすために、役付を削減・廃止する企業も増えています。
社内取締役や経営陣側もこのような動向や変化を正しく知り、意識を変え、自社の取締役会のあり方や、監督と執行、社内と社外の役割分担を自覚することが、ガバナンス改革を実装し、取締役会の実効性を強化するために不可欠といえます。
本稿では、ガバナンス改革の実装の観点から、取締役会の実効性強化について、社外取締役の役割・責務の明確化と、社内経営陣の理解の深化が重要であることを述べました。3回目となる次回は執行機能に着目し、経営チーム体制の強化について整理していきます。
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新しい時代のガバナンス(4)日本企業における不祥事②
新しい時代のガバナンス(5)日本企業に求められる「ガバナンス」
[ 1 ]経済産業省「CGS研究会 第5回事務局資料」 https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/3_005_05_00.pdf(最終確認日:2024/10/18)
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