ガバナンス改革の実装(3)

2024/12/03 中山 尚美、花井 宏介、辻本 理紗
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本連載では、経営を取り巻く環境やリスクが多様化・複雑化する中、日本企業が競争力を高め、成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題であり、何をすべきかについて、ガバナンス改革の実装の観点から論じます。
3本目となる本稿では、「経営チーム体制の強化の必要性」を中心に、執行機能の強化に向けた取り組みについて考察します。

日本の「経営者供給制約問題」

企業価値や「稼ぐ力」の向上には、経営者による経営判断と実行――すなわち企業の執行機能が重要であることは言うまでもありません。経営者には、迅速かつ適切な経営判断力や業務執行力が求められますが、グローバル化の進展やテクノロジーの進化、ESG(環境・社会・企業統治)への対応など、経営者が直面する状況は以前と比較にならないほど多様化しています。日本において、こうした状況に対応できる経営者人材は絶対的に不足しており、経済産業省の「持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告)」[ 1 ]では、これを「経営者供給制約問題」と呼んでいます。その要因として、終身雇用を前提とした日本企業では、社内の昇格トーナメントを勝ち上がった人材が経営者になるシステムであることが多く、異業種での経験を得る機会が限られ、多様な視点・経験が不足していること、また、トーナメントを勝ち上がるためにリスク回避志向に陥りやすいことが挙げられています。

トップマネジメントチーム(以下、TMT)の形成と責任・権限の明確化

経営者人材が不足しているという状況は、すぐに解決できるものではありません。では、複雑化する経営環境において、企業はどのように経営判断と業務執行をするべきでしょうか。経営が担うべき役割が多岐にわたる中、一人の経営者が全ての経営判断を行うことは現実的ではありません。そのため、社長・CEOを中心としたTMTを形成し、経営に求められる能力を各メンバーが機能分担し、また補完し合うことで、迅速かつ適切な経営判断と業務執行につながるものと考えられます。また、TMTを形成することで、一人のリーダーシップに依存しない持続可能な経営体制を築くこともできます。
こうしたTMTが効果的に機能するためには、責任・権限の明確化が欠かせません。これを怠ると、意思決定の遅れやTMT内での対立など、曖昧な責任の所在に起因する組織の混乱が懸念されます。責任・権限を明確にすることで、無用な社内調整を避けることができ、各メンバーが自らの強みを生かして、迅速な意思決定を行えるようになります。

サクセッションプラン(後継者計画)の策定・実行

常に優秀なTMTを形成し続けるには、経営者人材の安定的な供給が不可欠です。TMTのメンバーを外部から招聘(しょうへい)することも有力な選択肢ではありますが、前述の通り、日本では経営者人材が不足しているため、安定的に、またはしかるべきタイミングで速やかに、必要な外部人材を招聘(しょうへい)することは難しいといえるでしょう。そのため、サクセッションプランを策定し、社内で計画的にTMTの後継者を育成することが重要となります。これにより、経営者人材の安定的な供給が実現され、持続可能な経営体制の構築に資することとなります。
また、不確実性の高い時代にも対応可能なTMTを形成するためには、後継者人材プールの多様性の確保も重要となります。さまざまな属性、知見を持つ後継者人材を確保しておくことで、予期せぬ環境変化や課題に対する組織の柔軟性や対応力の強化にも寄与します。こうした観点からも、サクセッションプランの策定・実行は、中長期的な執行機能の強化につながるといえるでしょう。

まとめ

昨今の複雑かつ変化の激しい経営環境では、経営者に求められる能力が多様化しており、一人の経営者が全ての経営判断を下すことは困難な状況となっています。そのため、責任・権限が明確化されたTMTを形成し、チームで経営に当たることが現実的な解といえるでしょう。各企業がサクセッションプランを着実に策定・実行し、TMTを安定的に形成し続けることが、「経営者供給制約問題」を抱える日本の現状において、欠かすことのできない取り組みといえます。

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1 ]経済産業省 経済産業政策局「持続的な企業価値向上に関する懇談会(座長としての中間報告)」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/improving_corporate_value/pdf/20240626_1.pdf(最終確認日:2024/10/18)

執筆者

  • 中山 尚美

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    中山 尚美
  • 花井 宏介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第2部

    マネージャー

    花井 宏介
  • 辻本 理紗

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    コンサルタント

    辻本 理紗
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