役員報酬の最新トレンド(2024年)(2) ~業績連動指標とLTIスキーム~

2024/12/11 澤村 啓介、花井 宏介、相澤 了太
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上場企業における直近の有価証券報告書の記載事項に関する集計結果を基に、役員報酬制度のトレンドを概説する本コラム。第2回は、「業績連動指標とLTIスキーム」を取り上げ、その概要を解説します。

集計結果

(集計対象企業については役員報酬の最新トレンド(2024年)(1) ~報酬ミックスとペイレシオ~をご確認ください)

1.業績連動指標

STI(短期インセンティブ)に連動させる財務指標として、プライム市場時価総額上位100社、スタンダード市場時価総額上位100社(以降、プライム市場上位100社、スタンダード市場上位100社と記載。共に、時価総額は2024年6月30日時点)いずれも営業利益が最も多く採用されています。また、売上高と利益に関する他の指標も上位を占めています。一方で、非財務指標をSTIに連動させている企業は、プライム市場上位100社では38社ある一方、スタンダード市場上位100社では3社にとどまっています(プライム市場上位100社で採用されている非財務指標の詳細については、第3回のレポートで解説します)。
プライム市場上位100社において、LTI(長期インセンティブ)に連動させる財務指標として最も多く、31社で採用されているのはTSR(株主総利回り)、次いでROE(自己資本利益率)が23社でした。これらは株主への還元や資本効率など投資家目線も意識した財務指標と言えます。また、非財務指標をLTIに連動させている企業は46社にのぼり、財務指標では測定が難しい要素を中長期的な企業価値向上への動機づけに活用している様子がうかがえます。
(なお、後述のとおり、スタンダード市場上位100社では業績に連動するLTIスキームの採用は少数にとどまっています。) 

【図表1】STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標の採用社数(財務指標上位5指標と非財務指標合計)[ 1 ][ 2
STI・LTIそれぞれに連動させる業績連動指標の採用社数(財務指標上位5指標と非財務指標合計)
(出所)当社作成

2.LTIのスキーム

プライム市場上位100社で最も採用されているLTIのスキームは、RS(リストリクテッド・ストック、譲渡制限付株式報酬)/RSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)ですが、前回比で大きく減少(マイナス13社)しており、かわって株式交付信託[ 3 ]が前回(2023年調査)比で大きく増加(PSU型、RSU型計プラス17社)しています。
また、業績連動型のLTIスキームを採用している企業は株式交付信託(PSU型)が32社、PS(パフォーマンス・シェア)/PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)が29社の計61社にのぼり、プライム市場上位100社の過半数の企業で導入が進んでいます。
これに対し、LTIを導入していない企業は7社のみであり、プライム市場では中長期的な業績向上を目指したインセンティブの付与を積極的に行っていると言えるでしょう。
一方、スタンダード市場上位100社では、最も多く採用されているLTIのスキームとは、RS/RSUの34社、次いでストックオプションの13社となっています。LTIを導入していない企業は38社と前回より減少しているものの、中長期的な業績向上を見据えたインセンティブの付与は道半ばという状況です。
なお、スタンダード市場で業績連動型のLTIスキームを採用している企業は株式交付信託(PSU型)が12社、PS/PSUは7社の計19社にとどまり、LTIを採用している場合でも業績に連動しないスキームが依然として主流となっています。

【図表2】LTIのスキームの採用状況[ 4 ][ 5
LTIのスキームの採用状況
(出所)当社作成

まとめ

スタンダード市場ではLTIの導入が進み、構成比率も上昇傾向にあることから(第1回コラム参照)、経営陣の適切なリスクテイクを促す仕組みが徐々に整備されつつある様子が見て取れます。今後は、プライム市場の企業のように、業績に連動したLTIスキームの導入や投資家目線を意識した業績連動指標・非財務指標の採用など、中長期的な企業価値の向上に向けたさらなる改善が望まれます。

次回は、「役員報酬に反映する非財務指標の動向」をご紹介します。

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1 ]調査対象企業のうち、業績連動指標の記載が明確に確認できた企業を集計
2 ]今回の調査より、各指標の採用社数を集計(前回までは各指標の採用件数を集計)
3 ]信託を通じてRU/RSUやPS/PSUの仕組みを実現するスキーム
4 ]調査対象企業のうち、LTIの記載が明確に確認できた企業を母集団として集計。1社で複数ケースを設定しているケースあり
5 ]今回の調査より、株式交付信託をRSU型とPSU型に区分して集計

執筆者

  • 澤村 啓介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    シニアマネージャー

    澤村 啓介
  • 花井 宏介

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第2部

    マネージャー

    花井 宏介
  • 相澤 了太

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第1部

    コンサルタント

    相澤 了太
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