役員報酬の最新トレンド(2024年)(3)~報酬に反映する非財務指標の傾向~
上場企業における直近の有価証券報告書の記載事項に関する集計結果から、役員報酬制度のトレンドを概説する本コラム。第3回となる今回は、プライム市場の上場企業で近年導入が増加している「役員報酬に反映する非財務指標の傾向」について解説します。
調査概要
集計対象企業[ 1 ]
集計対象企業は、プライム市場の時価総額上位100社(時価総額は2024年6月30日時点)です。 なお、スタンダード市場時価総額上位100社のうち、非財務指標の採用が確認できた企業は2社のみであったため、今回は集計対象外としています。
集計の方法および分類
本調査では、まず集計対象企業のうち役員報酬への非財務指標の反映が確認できたケースを確認し、続いて確認できたケースにおける非財務指標の数を集計しました。
集計の際は、非財務指標を「ESGに関する取り組み」「戦略目標の達成」「その他」の3つに分類しました。「環境(Environment)」「社会(Society)」「ガバナンス(Governance)」の取り組みを「ESGに関する取り組み」、DXや研究開発の推進など、経営戦略の実現に向けた取り組みやテーマは「戦略目標の達成」、お客さま満足度向上のための活動状況など、上記2つに分類できない場合は「その他」としました。
集計結果
非財務指標の導入企業数と指標の数
役員報酬に非財務指標を連動させている企業は、STI(短期インセンティブ)が38社、LTI(中長期インセンティブ)が46社でいずれも前回調査(2023年度)から増加しています。また、1社あたりの非財務指標の平均数は前回調査と比較してSTIが1.0、LTIが0.7増加しています。つまり、導入企業、採用する非財務指標の数のいずれも増加傾向にあります。この結果から既に非財務指標を導入している企業においても、ステークホルダーの多様化する関心に応えるために、さまざまな指標を役員報酬に反映させる動きが加速していると考えられます。
非財務指標の動向
STIに反映されている指標の数は、「ESGに関する取り組み」が79件、「戦略目標の達成」が17件、「その他」が17件でした。この結果を前回調査(2023年度)と比較すると、特に「ESGに関する取り組み」が大幅に増加し、とりわけ「DE&Iに関する取り組み」「女性管理職比率」といった「社会(S)のダイバーシティ」に関する項目の増加が顕著でした。
LTIに反映されている指標の数は、「ESGに関する取り組み」が94件、「戦略目標の達成」が13件、「その他」が19件でした。この結果を前回調査と比較した場合も、STIの結果と同様に「ESGに関する取り組み」が大幅に増加する傾向が見て取れました。「社会(S)のダイバーシティ」の他では、「従業員エンゲージメント指数」などの社会(S)の「人的資本」に関する取り組みが大きく増加しています。
STI、LTIのいずれにも反映されている指標の中でも、「人的資本」「ダイバーシティ」に関連する増加が目立ちます。この傾向は、「人材版伊藤レポート2.0」[ 4 ]にて経営戦略と人材戦略を連動させる取り組みとして、経営陣に支給される報酬と人材に関するKPIの連動が取り上げられていることや、労働力不足、人材の多様化などの外部要因の影響を強く受けているためと考えられます。
まとめ
今回の調査では非財務指標を役員報酬に反映させる企業が増加すると同時に、1企業あたりの非財務指標の数も増加していることが明らかになりました。ここから、非財務指標を導入済みの企業と未導入の企業との間で、対応状況の差が拡大していることがうかがえます。
非財務指標を役員報酬に反映させる企業や、1社あたりの指標の数は、今後さらに増加すると想定されます。その一方で、非財務指標の設定においては、財務指標とのバランスや、各社の事業状況および外部環境を踏まえた指標の設定が重要になります。また、評価方法や目標値の開示などを通じた透明性の確保が求められると考えられます。
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[ 1 ]2024年6月30日時点の最新の有価証券報告書を確認
[ 2 ]n数は調査対象企業のうち、非財務指標の記載が明確に確認できた企業。1社で複数指標を設定しているケースもある
[ 3 ]小数点第一位を四捨五入している
[ 4 ]経済産業省(2022)「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」
[ 5 ]非財務指標の小分類の「その他ESGに関する記載」は、「ESG」や「サステナビリティ」など、種別の判断が難しい記載を集計した項目である
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