本連載の第1回「若手社員の離職問題のこれからを考える」では、若手社員の離職問題の要因と対策について解説しました。売り手市場の中、人材確保が難しい企業においては「基準を下げて採用する」という手を打たざるを得ない場合があります。その状況下で取り組むべき離職防止策の鍵となるのは “動機付け”であると述べました。
具体的な施策は、オンボーディングの実施、キャリア研修(やりがい探索)、年功序列の処遇の見直し、管理職のマネジメント力の強化などさまざまです。しかし、施策を進める中で、「効果が出ない」「施策を続けても離職防止につながるのだろうか」という疑問や不安、焦りの声もよく聞かれます。効果的な施策を見いだし、実施するには「現状把握」「分析」「判断」の三つのステップのどれが欠けてもうまくいきません。今回はこの三つのステップの観点から、具体策である動機付けを行う前に、離職防止の施策を検討・実施するチェックポイントを紹介します。
現状把握と分析の重要性
施策実施の前に、まず離職の要因を突き止めるための「現状把握」と「分析」が不可欠です。若手の離職理由については数多くの調査があり、「職務の適正感」「人間関係」「労働時間」「処遇」などの理由がデータと共に提示されています。また、経営者や人事担当者間でも情報交換の機会を得て、他社の好事例を参考に施策を検討している企業も多いでしょう。そのような情報や事例を生かすためにも、自社に目を向け判断軸を設定することが必要です。具体的には、サーベイ(調査・測定)や社内ヒアリングなどを通じて定量的・定性的な情報を収集し、自社における若手の離職における現状を広範かつ抜け漏れなく把握していきます。
例えば、エンゲージメント(仕事に対する活力・熱意・没頭や組織に対する愛着、帰属意識から生じる会社との関係の深さ)は社員の定着率および生産性に深く関係しています。エンゲージメントに影響する指標を細かく見ていくと、下記のような項目が並びます。
1) 仕事:職務の適正感、仕事のやりがい 2) 環境:職場の雰囲気、組織風土
3) 成長:キャリア整備・育成体系 4) 評価・処遇:評価・報酬制度の明確さ・納得感
5) 上司:上司との関係性、サポート体制 6) 経営:経営層(管理職層)との関係性
分析に基づく課題の特定
情報を収集した後は、分析を行って離職の真因を明確にしていきます。サーベイにデータサイエンスの手法を組み合わせて課題を抽出したり、サーベイの結果に基づいてヒアリングを実施し、定量的手法だけでは把握できない実態をつかもうとしたりする企業もあります。
例えば、
- 評価や処遇を見直したにもかかわらず、若手が求めていたのは「職務の適正感」や「仕事のやりがい」「成長」だった
- 育成体系を見直して成長ができる環境を整えたはずが、業務面、精神面における上司のサポートが薄く、若手社員が燃え尽きてしまった
という状況が明らかになったとします。この場合、施策と問題解決の不一致が起きている可能性があります。
判断と“有機的なつながり”の確認を
「分析」から「判断」に進む際には、実施の判断を下した施策が人材マネジメントシステムとしてしっかりと機能するかを確認しましょう。
人材マネジメントシステムとは、「採用した人材を適材適所に配置し、定着と活躍を実現するための等級制度、報酬制度、評価制度、人材育成の有機的仕組み」のことです。 “有機的”とは、それぞれが互いに作用しながら機能する状況を指します。
これまでは、等級・報酬・評価制度など土台の変更が求められる施策と、柔軟に見直しが可能な人材育成に関する施策は、それらの性質ゆえに別々に取り組まれがちなのが実態でした。施策が人材マネジメントシステムとして機能するには、別々の取り組みではなく、他の仕組みと有機的に関連付けられる必要があります。
例えば、仕事ぶりや行動を適切に評価できるように評価制度を見直す場合、新しい施策を検討・実施するたびに人事制度全体を変更するのは現実的ではありません。ただし人材マネジメントシステムとして各施策を機能させることについては、常に念頭に置く必要があります。具体的には施策をスタートさせる前に、関連する他の仕組みは確実に機能するか、新しい施策を実施する際の実行者となる管理職がそれを実施できるだけの力量を備えているか、もしくはトレーニングの機会があるかといった点にも目を向けます。これによって、施策がより実効性の高いものになるでしょう。
今回は、「現状把握」「分析」「判断」の三つのステップの観点から、離職防止の施策を実施する前に検討するポイントを解説しました。
次回以降は、「キャリアデザイン支援」「ジョブ・クラフティング」という二つの切り口で若手社員の離職防止の具体策を紹介します。
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