再考・事業ポートフォリオ(3)
第1回では、資本市場および投資家が重視する経営指標について、第2回では、事業ポートフォリオに関する資本市場からの要請と、その期待ギャップについて解説してきました。3回目となる今回は、日本企業が事業ポートフォリオマネジメントを効果的に実行するために、適切な組織体制や十分な審議を行うための会議体の設置などについて、具体的な取り組みを紹介します。
事業ポートフォリオに関する基本方針の作成
事業ポートフォリオマネジメントでは、企業ごとに業態やビジネス慣行またはグループ構造などが異なるため、それぞれの会社において、その目的に整合した事業ポートフォリオのフレームワークや、プロセスを検討することが必要です。まずは、事業ポートフォリオマネジメントの目的や対応方針を定めた、「事業ポートフォリオに関する基本方針」を作成することが効果的です。「事業再編実務指針」[ 1 ]によると、「事業ポートフォリオ基本方針」とは、「企業集団(グループ)として、どのような事業を有し、各事業にどのように経営資源の配分を行うかに関する基本方針をいい、事業ポートフォリオ(具体的な構成)の在り方に限らず、事業ポートフォリオマネジメントのための社内の実施体制の整備や事業評価の仕組みの在り方も含む」と記載されています。単に事業ポートフォリオそのものの在り方だけではなく、事業ポートフォリオマネジメントを実行・審議するための組織体制や会議体、およびプロセスなども含めた方針を策定することが求められています。
事業ポートフォリオマネジメントを実行するための組織体制
事業ポートフォリオを検討するためには、経営戦略の観点だけではなく、リスク管理の視点や経営指標となる数値計算などの対応が必要となります。従って、事業ポートフォリオマネジメントを適切に運用していくためには、経営企画部門をはじめ、リスク管理部門や財務部門、情報システム部門など、組織横断的な取り組みが重要です。
事業ポートフォリオを審議するための会議体
事業ポートフォリオマネジメントを効果的に実施するためには、監督機能と経営執行機能のそれぞれにおいて、十分な審議が必要となります。そのために、事業ポートフォリオマネジメントに関連した、特別な目的を持った委員会を設置する企業も出てきています。
監督側である取締役会には、ステークホルダーの要望を適切に踏まえた、事業ポートフォリオ戦略の策定が求められています。従来のビジネスモデルに固執することなく事業戦略を検討するために、社外取締役を委員長とした特別委員会を設置することもあります。事業戦略を検討するための委員会(事業ポートフォリオ戦略も含む)は、平時において自主的に企業価値向上のために設置されることもあれば、アクティビストからの提案により設置されるケースもあります。
また、執行側でも、事業ポートフォリオに関する基本方針に従った新規事業への投資や、適切なモニタリングを強化するために、投資審査や管理のための特別委員会を設置するケースもあります。このように、事業ポートフォリオマネジメントの実効性を強化する目的を持った会議体を設置することも、効果的な取り組みの一つであると考えられます。
日本企業における今後の展望
本コラムでは、全3回の連載を通じて、ROE (自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった経営管理指標、資本市場からの要請とそのギャップ、事業ポートフォリオマネジメントに関する方針や組織体制、審議のための会議体などについて解説してきました。
2023年3月、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」[ 2 ]が、プライム・スタンダード市場の上場会社への要請として公表され、取り組みの開示状況についてモニタリングが行われています。このような施策も契機となり、企業価値向上を目的とした事業ポートフォリオマネジメントに対する、投資家からの要望がますます高まってきています。しかし、多くの企業にとって、事業ポートフォリオマネジメントに関する取り組みは、試行錯誤をしつつもようやく緒に就き始めたばかりです。今後、日本企業は、事業ポートフォリオマネジメントの取り組みを高度化・定着させ、事業の選択と集中および適切な経営資源の配分を促進することにより、企業価値向上を実現することが望まれます。
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[ 1 ]経済産業省「事業再編実務指針 ~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~ (事業再編ガイドライン)」
(2020年7月31日)https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/20200731003-1.pdf(最終確認日:2025/1/9)
[ 2 ]株式会社東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月31日)https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html(最終確認日::2025/1/9)
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