サーキュラーエコノミーは規制対応から競争力の強化へ ~EU域内子会社のCSRD適用が始まる~
サーキュラーエコミーは、モノを大量生産・大量消費・大量廃棄する従来の一方向のリニアエコノミーと対比し、循環型経済といわれています。2015年、欧州委員会においてCEパッケージとして行動計画が発表されて以降、エコデザイン規則、プラスチック容器包装規則、欧州バッテリー規則などの具体的な法規制の導入が相次いでいます。また2025年からは、EU域内の大規模企業に対してCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が適用され、気候関連のみならず、サーキュラーエコノミーも開示対象になります。国際的には、2024年5月にISO 59000シリーズによってサーキュラーエコノミー規格が発行された他、2025年末には、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)によって、民間企業のサーキュラーエコノミーへの移行を促進すべく、グローバル循環プロトコル(GCP)の発表が予定されています。サーキュラーエコノミーは規制対応と捉えられがちでしたが、ここまで開示要請が高まるならば、先手を打ち、ビジネスチャンスと捉えることもできるのではないでしょうか。本コラムでは、サーキュラーエコノミー戦略について検討します。
3Rとサーキュラーエコノミーの相違点
日本では、2000年の循環型社会形成推進基本法により、リデュース、リユース、リサイクルの3R政策が始まり、家電、自動車、食品、建設といった産業別の廃棄物関連法が整備され、3R政策が推進されました。その後、2019年の欧州グリーンディール政策により、廃棄物を出さず、その価値を維持し資源として循環し続けるものにする、その手段としてサーキュラーエコノミーが提唱されました。この欧州の動きを受け、日本でも2020年に循環経済ビジョンが策定されています。さらに、再生資源の利用促進、シェアリングサービス化や二次流通品の導入、脱炭素効果の分析や製品トレーサビリティの確保など、資源有効利用促進法の改正を重ね、従来の廃棄物の視点ではなく、経済価値の維持・向上につなげることが盛り込まれるようになっています。
EUでは、欧州バッテリー規則などの製品のサーキュラー化に向けて、ルールメイキングが起きています。これまでの廃棄物発生量といったアウトプットに着目した指標ではなく、原材料の再生材比率といったインプットに着目した数値目標が設定されています。出口ではなく入り口の要件であり、設計段階からの変更が求められるため、該当する業界にサーキュラーエコノミーへの移行、場合によってはビジネスモデルの変革が求められることを意味します。
サーキュラーエコノミーを推進する団体で、イギリスに本拠地を置くエレン・マッカーサ財団は、サーキュラーエコノミーの3原則を、(1)資源投入を抑え、廃棄を減らす、(2)製品の経済的な価値を維持・循環させる、(3)自然を再生する、と定義付けています。
CSRDによるサーキュラーエコノミー取り組みの開示義務
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の開示基準を基に、日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が気候関連の開示基準を公開し、2025年3月に最終化が予定され、最短で2027年3月期から、時価総額3兆円以上の上場企業は基準に沿った開示が求められます。
欧州では、CSRDが2024年から段階的に始まり、2025年からはEU域内の大規模企業は非上場企業でもCSRDが適用され、2026年より、サステナビリティステートメントによるESG情報の開示が義務化されます。これにより、EU域内に子会社を持つ日系の親会社にも影響が及びます。
CSRDでは、気候関連のみならず、汚染、水資源、生物多様性、サーキュラーエコノミーの他、社会やガバナンスといったトピック別基準ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)があります。自社グループがサーキュラーエコノミーを重要課題(マテリアリティ)であるとした場合、リスク・機会の評価に基づく戦略、方針、指標・目標などを開示しなければなりません。一例として、事業者は資源流入、資源流出、廃棄物に関してサーキュラーエコノミーに関するインパクト、リスク・機会を特定するプロセスを記述することが求められています。これまでは、TCFDによる気候関連の開示が中心でしたが、いよいよサーキュラーエコノミーについても開示が求められるようになります。
規制対応から競争力の強化へ
EUでは、食品容器包装プラスチック、自動車、バッテリー、電気電子、建設、繊維といった業界ごとに、サーキュラーエコノミーに関する法規制が導入されつつあります。特に、再生材の含有率に関する要件として数値目標が課され、再生材比率の向上に向けて、新たにサプライヤーとの協業や、製品回収のためのパートナーシップの構築などが必要になります。
バッテリーでは、製品のライフサイクルCO2であるCFP(カーボンフットプリント)に対して上限値が定められ、2028年以降、CFP上限値を超えるバッテリーはEUにおいて販売できなくなります。このようなCFP上限値の設定は規制強化と考えられる一方で、性能を向上させCFP最小値を実現することは、競争力強化のチャンスと捉えられます。
サーキュラーエコノミーに関するリスク・機会の把握から戦略立案へ
将来の競争力の強化につなげるためには、差し迫った規制対応ばかりではなく少し先を見据えて、サーキュラーエコノミーに関するバリューチェーン上のリスク・機会を把握することが重要だと考えます。
国別や事業別に、自社グループの長く深いバリューチェーンのどこに、サーキュラーエコノミーに関するリスク・機会が存在するのか、洗い出しから始めることは、サーキュラーエコノミー戦略立案において有効な手段です。各国法規制の動向を把握し、競合他社の戦略の方向性や市場における新たなビジネスチャンスを見極め、戦略を立案することがますます重要になります。
サーキュラーエコノミーの国際規格ISO 59000シリーズには、環境マネジメントシステムのISO 14000シリーズのように認証制度はありませんが、サーキュラー型のビジネスモデルの移行に当たり、参考とすべき戦略や指標が包含されています。例えば、ISO 59010[ 3 ]にはサーキュラーエコノミーによるビジネスモデルの移行や、バリューネットワーク形成のための戦略ガイダンスが、ISO 59020には測定可能な指標が示されています。こうした国際規格を参考にしながら、攻守一体となったサーキュラーエコノミー戦略の立案を通じて、将来の製品・サービスの価値を維持・向上させていくことが、企業の競争力強化につながるでしょう。
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[ 1 ]欧州委員会「包装・包装廃棄物に関する規則案」(2022年11月30日)European Green Deal: Putting an end to wasteful packaging, boosting reuse and recycling (europa.eu) (最終確認日:2024/12/13)
[ 2 ]欧州委員会「ELV(自動車設計・廃車)管理における持続可能性要件に関する規則案」(2023年7月13日)
Proposal for a Regulation on circularity requirements for vehicle design and on management of end-of-life vehicles – European Commission (europa.eu)(最終確認日:2024/12/13)
[ 3 ]bsi.Knowledge「BS ISO 59010:2024」(2024年5月31日)
https://knowledge.bsigroup.com/products/circular-economy-guidance-on-the-transition-of-business-models-and-value-networks?version=standard&tab=preview(最終確認日:2024/12/13)
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