国土政策と社会的合意形成のプロジェクト・マネジメント
社会的課題に関して、関連するステークホルダーの関心・懸念(インタレスト)を勘案した新しい政策のデザインと社会的合意のための新たなシステムの構築のために、国土政策をめぐる基本的な思想について、歴史的考察と具体的な実践に基づいて考察したい。
基本的な思想は、奈良時代の高僧・行基菩薩の行った公共事業から検討する。行基の活動は、7世紀に、唐・新羅に対して倭が行った戦争の戦後復興時代の社会基盤整備という性格をもっている。当時の状況は、ちょうど、無謀な戦争によって国土を焦土としてしまったわが国が、復興の時代に推進した社会基盤整備の時代に重なってみえる。高度経済成長を大目標とする国土政策が日本の豊かな自然環境を破壊し、地域社会を疲弊させる状況に陥ってしまった現在、いったいわたしたちは、どのようにして国土を再形成していかなければならないのか。当事者として現場に立ち、いくつかの事業に関わった者として、行基の思想と行動を問いなおすことは、わたしたち自身の国土に対するかかわり方を考えるうえでも大いに参考になる。
土木工学のあり方について、土木学会では、平成21年の学会で「利他行の土木」と題して議論を行った。わたしは、行基の思想と行動についての報告を求められた。このときの報告をもとに、まず、行基の時代とその思想について考察した後、わたし自身がかかわった斐伊川水系大橋川周辺まちづくり基本計画策定事業と宮崎海岸侵食対策事業の進め方について検討しながら、国土政策のこれからという課題に答えたいと思う。本論の主張を一言でいえば、「血の通った国土づくり」ということである。
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