気候変動対策と生物多様性保全は、いずれも1990年代から継続的に議論が行われているテーマである。ほぼ同時期に議論が始まり、約20年が経過した現在、双方の取り組みの進捗に大きな隔たりが出てきた。気候変動対策については国内外ともに取り組みが拡大し、社会経済的に大きな影響を及ぼすに至ったが、生物多様性保全に係る取り組みは緒に就いたばかりであり、取り組み促進に向けて解決すべき課題も多い。
生物多様性保全に係る取り組みが遅れている背景には、生物多様性というものが地域特性に富み、幅広い価値を有し、因果関係が複雑であるという事情がある。このため、定量的に評価する方法が十分に開発されておらず、国際的な合意にも至っていない。こうした中で、近年、生物多様性と気候変動の関係性に着目した議論が活発化し、生物多様性保全に向けた議論が、先行する気候変動対策の枠組みの中で進められるようになってきた。その議論の行方に大きな影響を与えているのが「REDDプラス」である。REDDプラスは森林減少・劣化の抑制や炭素吸収等を促進することによって気候変動対策と生物多様性保全を同時に達成し得る取り組みである。詳細な運用ルールに関する国際合意には至っていないものの、今後の国際展開が大いに期待される。取り組みの遅れが指摘されてきた生物多様性保全も、このREDDプラスのもとで加速する可能性が高い。
以上のような状況を踏まえつつ、本稿では、「気候変動と生物多様性」を主題として、双方の関係性が論じられ、REDDプラスが提案されるに至るまでの経緯について整理を行った。さらに、今後REDDプラスが展開し、「気候変動と生物多様性」という概念が国際社会や市場経済に組み込まれていくプロセスについて展望した。
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