企業側へ向いてきた大学の産学連携体制

2007/02/05 上野 裕子
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大学の産学連携・技術移転の体制が近年大きく変化している。
2003年度に「知的財産本部」の整備が開始された時、1998年から整備されてきた「TLO(技術移転機関)」、従来からあった事務組織(「研究協力課」「地域連携室」あるいは「庶務課」など)、さらに「地域共同研究センター」、「研究推進部」「産官学連携センター」「リエゾンオフィス」といった共同研究等の窓口と合わせ、大学によっては、4種類の産学連携組織が並立することとなった。企業にとっては窓口が分かりにくく、大学にとっても、組織間で業務の重複が生じた。
こうした状況をふまえ、各組織の役割を限定させて組織間の連携を図った大学が少なくない。例えば、共同研究の相談は「地域共同研究センター」が受け、その成果として知財が生まれたら「知的財産本部」が管理し、ただし特許出願手続等の事務は「研究協力課」が行い、その特許を企業にライセンスする時は「TLO」が登場する、といった具合である。
しかし、このような絵に描いたような流れ作業が上手くいくケースが多いはずもなく、また、“出願までは知財本部、技術移転はTLO”といった役割分担も非現実的なことが徐々に明らかとなった。何故なら、自らが特許を活用して製品を生産することのない大学は、本来、技術移転先の企業の目途を付けてから特許出願するのが理想であり、両者の連携は欠かせないためである。技術移転の見込み無く特許出願するのは、買い手の付かない特許を大量に保有する結果に陥りかねず、そのような特許の技術移転ばかりを任されてはTLOもたまったものではない、ということになってしまう。
一方、企業の側は、内容にかかわらず自らが相談しやすいところに相談する傾向があり、それも、厳密な役割分担を非現実的なものとした。
このような事態が続出したことを経て、近年、複数の産学連携組織の連携強化、さらには一本化が進んでいる。
例えば、「産学連携推進機構」や「産学連携推進本部」といった総合的・包括的な組織を設け、その中に上述の4種類の組織を、それぞれ“一部門”として位置付ける大学が近年増えてきている。あるいは、これら全体を「知財本部」が統合し、その中に各部門を設けている大学も見られる。国立大学法人化を受けて、従来学外組織としてしか設立できなかったTLOを学内組織として設立し、連携強化を図ろうとする大学も登場している。
形ばかり屋上屋を重ね、従来通りの役割分担は崩れていない大学もあるものの、全般的な傾向としては、企業に対する窓口を分かりやすくし、ワンストップサービスを目指す動きは確実に強くなっている。中には、各部門のスタッフの兼任や共通化を進め、共同研究の仲介から出願・ライセンスまで同じスタッフが対応するなど大学全体での一体的な動きを実現している大学もある。
各種の法制度による種々の組織整備を経て、今、大学における産学連携・技術移転の体制は、企業側を向いて、着実に使いやすく、開かれたものになってきている。

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