「新しい公共」の可能性と課題~市民公益活動による公共サービスの留意点~

2007/02/26 大塚 敬
公共事業

近年、地域の住民が自らの手で公益的な事業を展開する動きが活発化している。「新しい公共」と言われるこうした取組は、急速な少子高齢化により活力低下が懸念される地域が多い中で、地域活性化の有力な手法として期待が高まっている。本稿ではこうした取組の可能性と課題について述べてみたい。
総務省は「地方公共団体における新たな行政改革推進のための新たな指針の策定について」(平成17年3月29日総務事務次官通知)の中で、「住民が公共サービスに取り組む地域協働の推進」を位置づけ、同時期に公表された「分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会」の最終報告においても、「新しい公共空間の形成」を目指すべきとの方向性が打ち出された。これが契機となり、各自治体において「新しい公共」に係る取組が活発化した。「新しい公共」が求められる背景には、厳しい財政状況の中で、価値観の多様化、複雑化により公共サービスの範囲が拡大し、求められるすべてのサービスを行政だけで担うことが困難となっている点がある。そこで、公共サービスのうち基本的なもの、緊急度の高いものは引き続き行政が責任を持って行う一方、これら以外で可能なものは市民団体等に委ねる取組が広がっている。
具体的には、まず条例や指針などの形で市民団体を公共サービスの担い手として位置づけてその活動を促進、支援する方針を打ち出し、その上で、活動の対象地域や活動内容の公益性など一定の条件を満たす団体に対し、補助金や活動の場の提供など具体的な支援を行う制度を導入する例が多い。こうした制度により行われる活動は、生涯学習や地域文化の保存・活用、子育て支援、環境問題への取組など多岐にわたり、住民が自ら行うだけに高度な専門性を要するサービスは困難だが、営利企業では取り組めないようなきめ細かいサービスが期待できる。また、こうした活動に参加すること自体が地域住民にとって生きがいや自己実現の場となり、地域活性化につながるメリットがある。
ただし、こうした取組にあたっては次の点に留意する必要がある。第一に行政が責任をもって実施すべき公共サービスまでこうした枠組みに委ねてはならない。市民団体に行政や委託先の専門事業者と同等の責任と能力を求めることはできない。「新しい公共」とは財政負担軽減のために本来行政が行うべき公共サービスを市民団体に委ねるものではなく、行政が責任をもって行うもの以外で、地域ニーズがあり一定の公益性が認められる分野に積極的に住民の意欲と能力を生かすことである。従来はこうした分野まで行政が手がけていたが、ここに市民団体を活用することで行政は限られた資源をより優先順位の高い分野に重点投入することができる。第二に促進、支援する活動の公益性の基準を明確化することが必要である。既に制度を導入している地域の活動例を見ると、趣味的な活動にとどまり公益性が高いとは言い難い例も多い。行政資源を投入して支援する以上、公益性に疑義がある活動が対象となってはならない。どこまでを公益的とするかに絶対的な基準はなく、それぞれ地域の実情を踏まえて合意形成を図ることが重要である。第三に適切かつ確実に事業が行われるよう、高いモラルと実行力のある市民団体を育成することが必要である。支援が決定された団体が約束どおりに事業を実施できない例は珍しくない。行政支援を受けて公共サービスに取り組む市民団体には、その責任に応じた自覚と努力が求められる。
各地域が、住民と行政が協力して公共サービスを行う「新しい公共」の確立に向けて、他地域の制度を模倣するのではなく、公共サービスの範囲や住民、行政など各主体の役割分担、担い手の育成方法など、地域の実情に即した枠組みを構築することが期待される。

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