人口減少と地方自治体の定住促進・人口誘導政策

2007/05/01 秋山 仁
人口減少

我が国の人口が減少期に入り、新聞・雑誌等の記事にも人口減少をテーマとしたものが増えている。地方自治体では、これまでも長期計画等の中で、定住促進や人口誘導を重要な政策課題と位置づけているところが多数みられたが、ここ数年の間に、人口の維持や増加を目指す具体的な事業を展開する事例が急速に増加している。
大都市圏を抱える関西地域においても、2005年には滋賀県を除く府県の人口が前年比でマイナスとなるなど、もはや、人口減少への対応は、大都市圏の中心都市などの一部の都市を除くほとんどの自治体の共通課題となっている。
全国の人口が減少する中で、個々の自治体の人口が減少していくことはある意味で当然のことではあるが、今後10~20年のスパンでみると、人口誘導の都市間競争への適切な対応の有無によって、人口を維持(あるいは小規模の減少にとどめる)できる自治体と予想以上に大きく人口が減少して活力が低下する自治体に分かれていくことが予想される。2005年の国勢調査人口に基づいて人口推計を行うと、20年後には関西地域においても、65歳以上の高齢者の比率が人口の50%を超える「限界集落」ならぬ「限界町村」が多数発生することも見込まれる。

人口減少への対応として、出生数を増加させるための政策は重要であるが、1.25前後まで低下した合計特殊出生率が多少上昇したとしても、ここ数十年の間に人口増加に大きく貢献することは期待できない。今後10~20年の人口動向を左右するのは、転出入による社会増減であり、転出を抑制し転入を増加させるための取り組みが必要となる。
各種のアンケート調査の結果をみると、転居理由の主なものは、「転勤」「就職」「進学」「結婚」「住宅の住み替え」である。「転勤」「就職」「進学」では、地域ブロックを越えた移動もあるが、転居の多くは同一市町村内あるいは近隣市町村への移動であり、同じ生活圏内での移動が転居の大半を占めている。
このような人口移動の現状を踏まえると、定住促進、人口誘導においては、周辺市町村を中心とするエリアを対象とした人口移動に焦点を絞って、方策を検討することが最も現実的な対応と考えられる。人口関連の統計データを用いて、転居の相手先と転居した住民の属性を詳細に分析するほか、転居した住民を対象に転居理由や転居先選定の要因等を尋ねるアンケートやインタビュー等を実施し、人口移動の現状とその背景について把握することから始める必要がある。さらに、こうした分析の結果を踏まえて、地域の現状を人口政策の観点から再度検証し、費用対効果を考慮した施策を立案していかなければならない。
人口の定住や転入は、都市基盤、交通、教育、福祉、医療などの様々な視点からの住民の総合評価の結果であり、特定の施策を講じることによって短期的な効果を期待することは難しい。このため、10年、20年といった中長期の視点で着実な取り組みを積み重ねていくことが重要となる。そのためにも、人口の定着と誘導に向けた具体的な戦略の立案がこれまで以上に求められている。

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