非営利法人の資金運用

2007/05/07 奥田 亘
学校法人

ここで「資金運用をする非営利法人」として念頭に置いているのは、「一定規模以上の運用資産を持ち、そこから得られる運用収益を収入に織り込んで事業予算を編成・執行する法人」であり、財団法人や学校法人などの一部が該当するものと考えている。仮に法人の収入全体に占める運用収益の絶対的な構成比が小さくても、例えば収支が釣り合わない(=つまり営利では成り立たない)事業を継続的に運営していくには、結局のところ収支尻を合わせるための事業外の追加的収益が不可欠であることに変わりはなく、資金運用収益には、新規に提供される寄付金・補助金と同様の経済効果を発揮することが期待される。
一方で、運用収益の変動は激しい。1985年に開始された東京証券取引所の長期国債先物取引においては、取引対象とする長期国債標準物(期間10年)の表面利率を6%と定めた訳であるが、これは当時の「景気変動をならして考えれば、国債を持っているだけで元本の6%くらいの収益を平均的に挙げられる」という一般的な感覚を示している。(念のため付言すれば、もちろん東証は将来の金利水準の予想値として6%と定めた訳ではない。)6%程度の運用収益を織り込んで設計された事業を運営する法人は、当時においては明らかに合理的であったが、その後の「経験則とは大きく異なる、異常な低金利の長期化」はこれらの法人にも「経験則を外れた対応」を迫るものになった。
それまで利用していなかった運用商品(例えば投資信託、仕組債券、外国債券)への投資を新たに開始したことが結果的に効果を発揮したケースは、多く知られるところである。但しその実態を客観的に評価すれば、?@従来は努力不足によって見逃していたより適切な運用機会を得たという「投資家としての進歩」の側面と、?A不慣れなリスクを負担する引き換えに収益の上積みを狙った「緊急措置の断行」の側面を兼ね備えている。将来、国債投資の利回りが上昇した際に?@を捨ててしまえば、そのまま事業の非効率化につながる。一方?Aについては、市場環境によっては直ちに損失にも転じる性質の収益であり、これを長期にわたってあてにするような事業設計は、多くの非営利法人にとって相応しいものではない。
実のところ、「運用商品の種類による制限」を見直し、ここ数年で解禁した商品の一部への投資を再度凍結したとしても、?@の効果のみを残し、?Aを排除することは不可能なのである。金利の正常化を見据え、資産運用プロセス全体の再設計が必要な時期に差し掛かっているが、投資理論は?@と?Aとを分離するための知恵を与えてくれる。運用関連産業、とりわけ運用コンサルティングサービスは、その知恵を「実行可能な手段」へと具体化していく能力が求められている。

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