地方税改革案のどこに着目すべきなのか

2007/05/28 大野 泰資
税制

地方税収(都道府県分)のうち、法人二税(事業税と住民税の法人分)は、23%を占める。この法人二税は大都市圏への集中度が激しく、東京都だけで全国の法人二税収の26%を占める。これに神奈川、愛知、大阪を加えると、4都府県だけで全国の49%を占めることになる。東京都と沖縄県を比較してみると、住民一人当たりの法人二税収は、約7倍の格差がある(注1)。
企業が集積のメリットを求めて大都市圏(とりわけ東京)に集中する以上、法人二税収の大きさは、大都市圏自治体の自助努力だけでは説明しきれない、という指摘には否定できないところがある。そこで、現在、地域的な偏在性の大きい法人二税に代わり、地域偏在の小さい税(例えば地方消費税)を強化する、という検討が行われている。あるいは、東京都心を国直轄の東京DC特区にし、そこから上がる法人関連税収を地方に再分配しよう、という案も出ている。果ては「ふるさと納税」を創設して、居住地とは関係なく納税地域を指定できる制度案まで出されている。

ただ、総税収を変更しない税源の代替は、ある地方自治体にとっては税収増になるが、別の地方自治体にとっては税収減となる。実際に何通りかのシナリオを設定して試算を行えば、どの地方自治体でどれくらい税収が増え、どの地方自治体でどれくらい税収が減るのかが把握できる。その結果、税収の増える地方自治体は賛成し、税収減となる地方自治体は反対することになる。
しかし、税収の増減に着目した地方自治体の利己的動機だけで改革案の是非(と言うよりも賛否)が論じられてしまうのは良くないだろう。本来、議論されるべきことは、財源と責任をセットにした地方自治を保証するために、地方税の原則(注2)に照らした場合、地方税の柱として妥当な税は何かという点であり、また、地域的偏在度が高い法人二税は、地方税の基幹税として相応しいのかどうかという点である。

例えば、法人二税を国税化して同額分の消費税を国から地方に移譲する、という案が実現すると、国としても地方全体としも総税収は変わらない。しかし、一部の大都市圏を除き、地方税収の増加する自治体が多い。その結果、国から自治体への再分配(財政調整)である地方交付税額を減少させることができる(注3)。このことは、地方交付税(さらには国庫支出金)を通じた再分配メカニズムを、地方偏重であるとして不満を抱いている大都市圏自治体にとっても、悪い話ではない。大都市圏自治体は改革によって税収は減るかもしれないが、国から自治体への再分配は、元を辿れば都市部で大きい所得税や法人税等の国税を原資とした、地方自治体同士の再分配と見ることも可能だからだ。都市部以外の自治体の自主財源比率が高まり、財政的な自立度が高まれば、再分配メカニズムを縮小させることができる。

地方税改革案は、地方税収の単純な増減議論だけに終始させてはならず、地方税の原則と、改革の結果生じる国と地方の再分配、地方自治体と地方自治体の間の国を通した再分配の大きさも視野に入れた議論が必要なのである。もちろん、その前提として歳出削減の徹底が必要であることは言うまでもない。

(注1):以上の数値は、いずれも2005年度決算値。
(注2):一般には、(1)安定性、(2)伸張性、(3)普遍性、(4)応益性の4原則が挙げられる。
(注3):税収に地域的不均衡が生じるなら、行政サービスを維持していく上では、再分配機能を働かせるしかない。再分配は程度の差こそあれ、どこの国でも実施していることである。

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