感性産業と日本の伝統文化

2007/07/09 保志場 国夫
文化

感性が強み?

「需要喚起のカギは感性」をテーマに、ワールドビジネスサテライトが、感性に訴える商品を紹介していた。例えば恐竜や動物の形の輪ゴムが、6個入りで315円でも、売れるのだそうだ。平成19年5月22日に経済産業省が公表した「『感性価値創造イニシアティブ』について」(報告書)が契機となっている。従来のものづくりの価値軸(性能、信頼性、価格)に加え、生活者の感性に働きかけ共感・感動を得る『感性価値』を第四の価値として着目し、日本の産業の競争力を強化するというのが趣旨だ。

日本の和のこころを活かす

平成17年7月に、同じく経済産業省が公表した「『新日本様式』(Japanesque*Modern)の確立に向けて」の中でも、日本を代表する経営者トップが、同じような問題意識で議論されている。「なぜ、欧州の有名ブランドが売れるのか?」日本のものづくりは、高品質・高機能で勝負してきたが、世界市場での限界を感じているというのが共通した意見だった。そこで、「日本の伝統文化をもとに、今日的なデザインや機能を取り入れて、現代の生活にふさわしいように再提言」することを結論に、「日本」という国のブランディングの必要性が共有された。
冒頭の報告書では、作り手のこだわりや美意識を「共感」をもって受け止められるようにデザインなどを工夫した商品が、「いい商品、いいサービス」とされている。「こだわりや美意識」の源泉は何かが重要なのだが、それは新たに探さなくても足下にある。我が国の伝統文化を創造・伝承してきた、日本を大切に思う私たちの心である。

文化財をとりまく危機的状況

では日本の心をどのように活用して、新しい商品づくりをするのかが課題となる。伝統を支えてきた匠の技や心をどう活かすかがキーとなる。が、ここでは、そのルーツを話題としたい。
実は、日本の心の象徴である文化財や技能は危機的状況にある。文化庁や自治体の予算は少なく、しかも減少傾向にある。例えば国宝の2割が集中する京都市の関連予算は1億円にも満たない。無形の技能は、伝承するための仕事が不足し、持続不全である。また、文化財補修に必要な費用の半額~2/3を所有者自身が負担しなければならない制度にも問題がある。文化財の指定を受けると、所有者の経済的負担が継続的に発生するのである。文化財は国の宝として、公共が責任を持って伝承する制度が必要だと思うのだが、こうした問題があることすら社会的に認知されていない。日本のルーツへの無関心さが問題である。

世界が憧れる商品を生み出す仕組みが必要

「保全から活用へ」が文化財保護のキーワードとなっている。公開化と集客により料金収入を得ることが課題解決の一つとなっているが、公開に伴う問題も多く、経済的にも限界がある。文化財の保全については、文化行政の枠組みを越え、先の感性産業などの産業政策等とリンケージさせる必要がある。まずは世界市場で新たな日本の価値(=日本ブランド)を生み出す社会資本として文化財を位置づけ、産業と文化を融合させた総合的な施策が必要である。

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