地方の格差是正のために、現住所以外に納税する「ふるさと納税」制度が検討されている。ふるさと納税とは、個人にかかる税の一定割合を個人が育ったふるさとに納税できるようにするという制度である。
総務大臣の研究会が開催され、2007年10月に「ふるさと納税研究会報告書」(以下、報告書)がとりまとめられている。これによると、個人住民税所得割の税額の1割を上限として、税額控除するとしている(下限は5千円)。『ふるさと』に「納税」するという制度であるが、実際には『ふるさと』とする地方自治体への「寄付」による「税額控除」を受けることができるという方式が提示されている。
この制度を実現させるためには、(1)『ふるさと』の範囲、(2)税の受益者負担原則、(3)税収納等の手続きやコストの検討が課題であると考えられる。
これらの課題について報告書においては、以下のように整理されている。
- 『ふるさと』の範囲については、出生地、養育地などを限定することが考えられたが、厳密に定義することが難しいため、本人が納税したい自治体であればどこでもよいこととなっている。
- 税の受益者負担原則については、住所地以外の自治体が課税することは困難であることから、寄付金税制を応用することとしている。
- 税収納の手続きやコストについては、下限を5千円と定めて煩雑にならないようにすること、簡素な申告手続きについて検討することなどが提示されている。
このような内容で、どうしても『ふるさと』に納税するシステムをつくる必要があるのだろうか。
『ふるさと』はどこでもよいということは自治体間の手続きを煩雑にすると考えられる。現在1,800市町村あることから、可能性としては3,238,200通りの税額のやりとりが起こりうることとなる。また、寄付金による税額控除方式は、国税である所得税における所得控除とは異なるシステムとなり、『ふるさと』納税をしようとする人にとって、手続き等が難しいと考えられる。これらに加えて、手続きのためにシステム構築等を行うことにも多くのコストがかかることが想像できる。
なお、上限が住民税の1割であることから、格差是正にはほど遠いと考えられる。例えば年収500万円のサラリーマンで住民税は年間約15万円(扶養家族3名、社会保険料等を考慮)である。その上限の1割を『ふるさと』納税しても1万5千円に過ぎない。全国知事会の地方税制小委員会では出生地以外に住む人全員が住民税の1割をふるさと納税しても2%の変化にとどまると試算している。
このような煩雑な手続きを行ってまで、『ふるさと』納税制度をつくって実施するよりも、税源移譲により地方に税収を確保できる方策を実行することが必要ではないだろうか。
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