原油・資源価格高騰が製造業に与えるインパクト

2007/12/17 田村 浩司
製造業

原油をはじめ、銅、金、プラチナ、亜鉛、ニッケル、アルミなどの資源価格高騰が続いている。特に原油価格上昇の勢いは激しく、2007年1月からの約11ヶ月で2倍近くにまで高騰している。
各種資源価格の高騰は、製造業における原材料価格の上昇に直結し、その業績への影響が懸念されるところであるが、エネルギー需要にしめる石油需要の割合(石油依存度)の低下、省エネ技術の進展に伴うエネルギー消費原単位の低下、IT不況克服に伴う経営体質強化と売上数量の拡大等により、資源価格高騰に伴う製造業全体の収益への影響はマクロ的には限定的なものであった。むしろ、売上高の増加に牽引され、経常利益は過去20期連続で対前年度同期比プラスを維持するなど、製造業の業績は好調に推移してきた。
しかし、平成19年12月3日に財務省より公表された法人企業統計調査(平成19年7~9月期)では、全産業で0.7%減、製造業で3.6%減と、21期ぶりに経常利益が対前年同期比マイナスとなった。この変動要因を、売上高要因、固定費要因、変動費要因の3要因に分解してみると、売上高については対前年同期比7.6%増と好調を維持していることもあり、経常利益を押し上げる要因となっているが、固定費及び変動費の増加が売上高の増加を上回り経常利益全体を下げる結果となっていることが確認できる。(固定費は「人件費+減価償却費+金融費用」とし、固定費以外の費用を変動費としている。) 2006年7-9月期から2007年1-3月期にかけ、原油価格は減少傾向にあったことを考慮すれば、2007年10-12月期以降、変動費要因による経常利益の引き下げ傾向が強くなる可能性もある。
次に、損益分岐点比率の変動を、売上高要因、固定費要因、限界利益要因の3要因に分解してみると、売上高要因は2004年1-3月期から一貫して損益分岐点比率を引き下げる要因となっているが、2007年7-9月期では、固定費要因および限界利益率要因による損益分岐点比率の引き上げ効果が売上高要因の効果を上回り、損益分岐点比率がわずかではあるが上昇した。2007年4-6月期の結果と比較すると、限界利益率要因による引き上げの影響が大きくなっており、ここでも資源価格高騰に伴う原材料費(変動費)の上昇が影響を与えていると考えられる。

以上の傾向から、これまでの好調な売上高増加によって相殺されてきた資源価格高騰の影響が徐々に顕在化してきたとも言える。さらに企業業績を圧迫する方向で影響が強くなるか否かは、今後の資源価格市場の動きによるが、少なくとも受給の面では、BRICs等の新興工業国における需要増加が確実視されるため、その動向を注視する必要があろう。
一方で、長年、省エネ化と環境問題克服に取り組んできた我が国製造業には、優れた省エネ技術・環境技術が蓄積されている。今後は原材料価格高騰の影響抑制と同時に、省エネ・環境技術を活かした競争力強化が、産業政策上の重要な方向性になると言えよう。【経常利益率変動の要因分解】【損益分岐点率比率変動の要因分解】

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