我が国におけるオフショア開発の現状

2007/12/25 五味 崇
デジタルソリューション
業務改革

オフショア開発への取り組みが、近年、急速に拡大してきている。オフショア開発とは、システムやソフトウェアの開発を海外の事業者等に委託し、海外で開発することである。我が国のオフショア開発規模は、2005年の636億円から2010年には1,995億円と、5年間で3倍の規模にまで拡大するものと推計されている(総務省「平成19年版情報通信白書」)。
オフショア開発先となる中国やインドのソフトウェア産業も規模を拡大し続けている。例えば、インドの主要なソフトウェア企業4社(TCS(Tata Consultancy Services)社、Wipro社、Infosys社、Satyam社)の売上高は、2003年度から2006年度にかけて年平均40%弱の増加を続けている。

主なインドソフトウェア企業の売上高推移

主なインドソフトウェア企業の売上高推移

(注)インドルピーは約2.8円(2007年12月現在) 資料:各社資料より作成

国内企業がオフショア開発を進めている要因としては、内外の人件費格差に基づくコスト削減もあるが、国内の人材不足への対応という面も大きい。企業のIT投資が増加する一方で、ソフトウェア技術者の不足は深刻になっている。新3K(きつい、厳しい、帰れない)といったイメージから人材を集めることが難しいとの指摘もある。生産年齢人口が減少していく中で、海外のリソースを活用するオフショア開発の重要性はますます高まっていくであろう。
オフショア開発の現状をみると、その対象としている業務領域はプログラミング等の労働集約的な部分が中心である。より付加価値の高い川上・川下のプロセスについては国内で行っている。日本のソフトウェア開発は受託ソフト開発が中心であり、開発を進めながら仕様を顧客とともに作っていくというスタイルが多く、仕様変更も発生しやすい。一方、海外のソフトウェア企業を相手としたオフショア開発では、開始時点で仕様を完全に固めていなければならない。そのため、顧客との調整が頻繁に発生する上流工程は国内で担当し、仕様が確定してからモジュール単位のプログラミング等をオフショア開発で行うというケースが多くなっている。

日本企業におけるオフショア開発の対象領域

日本企業におけるオフショア開発の対象領域

オフショア開発を進めるにあたっては、国内での開発とは異なる工夫が必要である。国内企業であれば以心伝心で通じるところもあるが、オフショア開発では全ての要件を具体的に定義して明確に伝える必要がある。また、途中で仕様変更を行うと品質低下に繋がりやすいため、事前に十分に仕様を検討する必要がある。国内と海外とでは品質水準に関する想定レベルが異なることから、トラブル防止を図るために品質目標に関する定義も事前に行っておく必要があるだろう。その他、海外では優秀な人材ほど転職することも多いことから、常に技術的なチャレンジを与えるなどモチベーションを高め、定着を図る工夫が必要になる。また万一、人材の転出等があってもその後の開発やサポートに支障がでないよう組織的なバックアップ体制を求める必要がある。

我が国におけるオフショア開発は、取り組みが始まったばかりの段階でもあるが、あくまでも国内向けのソフトウェア開発需要に対して海外リソースを活用するというものが主となっている。一方、米国等の海外企業のオフショア開発においては、それだけではなく、グローバルにソフトウェア製品を展開していく上で、インドなどを開発拠点として活用しており、より上流工程に関してもオフショア開発に委ねている。国内企業においても、一部、インドに開発拠点を設けるなどの取り組みが開始されているが、インド等の優秀な技術者を活用し、欧米企業向けのソフトウェア開発や、グローバルなソフトウェア製品開発等にも取り組んでいく必要があるのでないだろうか。

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