全国各地において公営住宅や公社住宅などの公的住宅が老朽化し、耐震改修や建替への対応が大きな政策課題になっている。既に、先行的に建替を実施している自治体もあり、中には、PFI事業など民間活力を用いて建替高層化により、余剰地を処分し建替原資の確保や累積債務の削減を図っている自治体もみられる。
こうした先行的な取組をみると、公的住宅に範囲を限定すれば、課題へ適切に対応していると言えるが、住宅政策全体や住宅計画・生産技術の進歩をふまえると、検討や対策が不十分と言えるのではないだろうか。例えば、地方都市を中心に住宅そのものは余剰が顕在化してきており、数の上では新たに住宅をつくる必要性はない。建替対象団地周辺において民間共同住宅に空き家がみられる場合、耐震改修など適切な改修やリフォームを実施してもらったうえで、公的住宅の一部として自治体が借り上げた方が、住宅政策全体(マクロ)からみれば合理的なのではないだろうか。住宅計画・生産技術についても、国の補助金との関係や既存入居者への過剰な配慮から、これまでの仕様を前提とした建替が行われており、民間住宅市場で開発・普及してきている計画・生産技術の活用が十分ではないように思われる。入居者の公平性の観点からみれば妥当かもしれないが、自治体財政の破綻が懸念される現在の状況では、効率性にも十分に配慮しないと公的住宅制度自体の維持が困難となることも想定される。
さらに、先述した借り上げ方式を検討する際に周辺の民間共同住宅に十分な空き住戸があることが判明した場合、建替戸数を大幅に削減することにより、建て替える公的住宅をRC造ではなく鉄骨造に変えるという選択肢も出てくる。建設現場に係る諸経費やエレベーターの維持管理費の削減などライフサイクルコスト全体からみれば、鉄骨造の方がRC造よりも低コストになる可能性もある。地球環境問題への配慮の観点からみれば、間違いなくなるべく建替戸数を削減する方が合理的である。
ただし、こうした方針転換は、住宅ストックが余っているからといっても、当然のことながらすぐに実施できるものではない。まず、公的住宅のあり方自体の大幅な見直しが必要となる。また、一律の住宅仕様と連動した補助金システムの制度変更にとどまらず、住宅・不動産関連事業者や既存の住宅オーナーに対して民間共同住宅を借り上げる方針を明確に示すとともに、改修・リフォームを誘導するための適切な支援策を講じる必要もある。こうした取組は、短期間で実施できるものではなく、住宅政策全般のビジョンを明確に打ち出したうえで、関係行政機関や民間事業者と連携し、市民への広報も適切に行うなど、計画的な取組みが必要となる。
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