4月10日の早朝にJR中央線国分寺駅近くの変電施設で発生した火災事故は記憶に新しい。報道によれば、この事故で中央線が全線で運転を再開したのは同日午後3時、約50万人に影響が出たという。その影響の大きさに改めて驚くばかりだが、あとで、電気設備の漏電が事故の原因ではないかとの情報を聞いて、まず私が思い出したのは、2年前に実施した電気設備の事故に関する調査結果だった。
*「産業事故における電気設備の影響に関する調査研究」財団法人産業研究所委託調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社受託)(平成18年5月)
この調査では、工場や事業所に対して行ったアンケート調査から受電設備、配電設備といった電気設備の事故・故障の事例を収集し、電気設備の専門家が詳細に分析している。分析結果によれば、事故・故障の原因の約3分の1が「設備の老朽化」と最も多い。(もちろん、上記変電所の事故の要因が老朽化かどうかは不明である)。また、調査で収集した事故・故障事例となった電気設備のほぼ半数で、社団法人日本電機工業会が作成する更新推奨期間を超えていた。
電気設備にはなじみのない方も多いとも思うが、通常使用する期間はかなり長い。例えば、上記の電気設備の更新推奨期間は長いもので20年(ケーブル、変圧器、自家発電等)、短いものでも10年(ヒューズ)である。更新推奨期間が来れば直ぐに動かなくなるわけではないために、実際には30年、40年と非常に長い期間使用しているものもある。そのため、家庭での蛍光灯などもそうだが、動かなくなって初めて問題に気づくケースも多いと思われる。蛍光灯であれば、多少の不便は感じても直ぐに新しいものに交換すればすむが、工場などではそうはいかない。製造ラインがストップすれば、その日の生産計画の達成は絶望的で、製品の納入が遅れることにもなりかねない。製造業以外の企業でも安心はしていられない。ホテルやレジャー施設では電気供給は重要なインフラであり突然停電となれば、消費者へのサービス停止などに直結し、営業面での悪影響は計り知れない。本調査時に専門家の方から聞いた話だが、ホテルの一室で生じた地絡(アース)事故が、そのホテルの複数のフロアにまで停電を引き起こしたことがあるそうだ。そこで自社の重要な会合やプレゼンが行われていたら、と想像するだけで冷や汗が出そうだ。あとで被害にあったユーザやクライアントから損害賠償を請求されることにまで発展しかねない。企業としての信用に大きく傷がつくことにもなろう。
電気を安定的に供給するための電気設備は、正常に動いていて当たり前とされる。また、たとえ更新期間や耐用年数が過ぎたとしても、今現在動いている設備に対して、更新しなければならないという意識が働きにくい。電気設備自体は生産設備のように付加価値を生まないために、経営者の関心度合いは低いとされる。サービス業などそもそも電気設備の保全を全て外注している企業も多いだろう。
しかしながら、リスク管理の必要性は最近高まるばかりである。今一度、自社の電気設備を点検し、必要に応じて(上記の結果からは、半数近くは必要と考えられるが)設備の更新を進めることが重要ではないか。電気設備の保安を外部に委託している場合にも、設備の資料年数、更新規定などをチェックするとともに、設備のメーカなどとも連携して、中期的な電気設備の保全や更新の計画を策定することが望ましい。
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